セコムが事業の多角化を推し進めた原動力は、ビジョンへのこだわりと経営理念に基づく社員の絶え間ない自己否定なのだという。
2011年3月11日に発生した東日本大震災。この天災が語られるとき、「想定外」といった言葉がしばしば用いられる。
だが、果たして本当に想定外であったのか――。「TSUNAMI」が日本発の世界共通語であることは、広く知られた事実である。世界の0.25%の小さな国土に世界中の活火山の約7%がひしめきあい、マグニチュード6以上の地震の約20%が発生していることに加え、周囲が全て海であることが、そのことを裏付ける。
ITmediaエグゼクティブは10月18日、「創造的破壊――成功を捨てることで事業革新を呼び込んだセコム」と題したラウンドテーブルを開催。その公演の冒頭で、セコムの取締役会長を務める木村昌平氏は日本における地震の実情に触れ、「地震の強さと津波の巨大さは確かに異例だが、津波を伴う地震の発生自体は当然予見できたはず。
当然ながら、経営トップが事前にどれほど対策を講じるべきかについて判断を下すことはもとより、対策の限界を超えた場合の対応策と訓練についての責務を負っていたことは明らか。“想定外”という言葉は責任逃れ、進歩を妨げる言い訳でしかない」と釘を刺した。
今回の震災において、セコムでも反省がいくつもあったと木村氏。停電と通信障害によりセキュリティシステムが一部停止。道路などのライフラインが寸断されたため、被災地への社員の到着が大幅に遅れた。その結果、事業継続が困難な事態に直面し、ユーザーからのクレームも少なくなかったという。
そこでの教訓を踏まえ、セコムは今、事業を抜本的に見直している最中だ。その成果は、すでに表れつつある。例えば、伝言メモや写真などのデータを同社のセキュアデータセンターで預かる新サービスを加えた「新型ホームセキュリティ」もその1つ。これは、津波によって重要書類や携帯電話が流されたため、銀行の預金口座や各種証書の番号、知り合いの連絡先が分らなくなったとの声を踏まえ開発されたものだ。また、BCP/BCMに関して、事前準備から災害発生、初動・対応、復旧の一連のサイクルをグループ総体で支援するサービスにもより力を入れているのだという。
「当時、“通常”を維持できた組織は自衛隊しかいなかった。それは無理からぬことだが、顧客の声に耳を傾けることで、われわれにも同様に事業を継続できる能力が強く求められていることが改めて実感された。そこで、社会インフラも含めたセキュリティ・サービス提供に取り組むなど、避難者の生命を守り安心を提供すべく、可能なことから急ピッチで着手している最中だ」(木村氏)
そのために不可欠なもの。木村氏によると、それこそ企業の将来に向けた青写真である「志」と、知恵や技術や汗の結晶を生むための「絆」なのだという。
「企業とはそもそも社会に高い価値をもたらすことで利潤を生む組織体であり、仲間とともに偉大なことを実現する場である」と木村氏。実は来年で創業50周年を迎えるセコムの歴史は、「あらゆる不安のない社会の実現」という志の実現に向けた事業革新の歴史でもある。
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明治学院大学 経済学部准教授