いま日本企業が乗り越えるべき真の経営課題
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» 2011年11月08日 08時00分 公開

スマートな経営のためのラウンドテーブル:絶え間ざる自己否定で事業ビジョンを実現――セコムの木村昌平会長 (2/2)

[岡崎勝己,ITmedia]
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 事実、志にこだわったことで、セコムの事業領域は今では治安・犯罪から事故、自然災害、病気・老化、食料リスク、サイバーリスクまで裾野を広げる。例えばテロに関してはロンドン警視庁からテロ対策本部のセキュリティを、高齢化に対しては高齢者施設を、サイバーリスクに関しては日本有数のセキュアデータセンター事業をそれぞれ手掛ける。

 「当社は1980年代まで巡回警備サービスを中核に事業を展開してきた。しかし、創業者の飯田亮氏が機械でやれることに人手を割くのは、人間の尊厳を損なうものとして同事業から完全撤退を決断し、以来、多角化を積極的に進めてきた。約50年をかけて経営理念に沿う事業を一通り揃えることができたが、これもビジョンへの飽くなきこだわりがあったから」(木村氏)

 その結果、事業規模も拡大し、2011年3月期の売り上げは連結で6638億円に達している。

 そんなセコムでは、1992年7月、セコムの創業30周年を機に、取締役最高顧問・創業者の飯田氏が、セコムグループ社員向けに「セコムの事業と運営の憲法」を自ら執筆。その前書きの中でセコムの目指すべき事業のありかたを次のように解く。

 (前略)我々セコムグループが20年後、30年後、50年後に、どのような言葉で代表されて評価されるべきか。私は何よりも「いい仕事をしている会社ですね」の言葉を受けたいし、次世代、そして次の世代の仲間にも、「セコムです」と言った時に同様の評価を得させたいと思うのである。

 その上で、セコムが手掛ける事業範囲を、「人々に安心のための、そしてよりよき社会のためのサービスシステムである。この基本から外れる事業は、行ってはならない」と明確に規定。

 「すべてのセコムの判断尺度は“正しいかどうか”“公正であるかどうか”にある。そしてその正しさ、公正さは社会に対してどうかを考えることが必須となっているのだ」(木村氏)

 時流に流されることなく独自路線を貫けるのも、経営理念を憲法によって社員に噛み砕いて説明し、社員間で共有できているからこそだ。

ITがビジネスモデル革新の原動力に

 セコムの経営を表すキーワードの1つとして木村氏が挙げるのが、創造的破壊の原動力でもある「捨てる勇気」だ。すでに述べたとおり、セコムは巡回警備で利益を上げていながらも、そこからの撤退をあえて決断。その代替としてネットワークを活用したリモート監視サービスを開始し、同社の強みであるオンライン・ビジネスモデルを生み出した。

 「巡回警備からの撤退について飯田氏から相談を持ちかけられた時、われわれ役員は全員一致で反対に回った。だが、それを聞いた飯田は、誰もが選択しない最も困難で真っ当な道こそ巡回警備からの撤退であると確信して事業を潔く捨て去った。それなくして、次なる成長軌道を描くための基盤をこれほど迅速に整備することは困難だったはずだ」(木村氏)

 一方で、「ITの進化は人々の考えを変え、社会の仕組みも変えた。この変化に対応できない企業は消え去るしかない」と木村氏。こうした中、企業が革新を続ける上でITの活用は不可欠であり、ITの進化により情報と実態が同期し始める中にあって、「単なる効率化のみならず、ビジネスモデル革新に活用の軸足を置くことが強く求められている」(木村氏)。

 もっとも、ITによるイノベーションを実現するには、組織を率いるリーダーが「現状を否定する精神を持っていること」「動的不均衡を発現できること」「桁違いの革新目標を持つこと」「社員の心に火をつけられることである」といった条件を満たす必要もあるのだという。

 飯田氏は過去、こんなことを語っている。

 「僕は、社会の人たちから、あそこはいい仕事をしている、だから好きなんだと言われたら最高だと思っている。常に新しいことをやろうとする繰り返しが、個人のバリューを高める。イノベーションというのは技術革新のことではなく、思想のイノベーションのことなんだ。色っぽい企業、粋な社員……バリューというのは、こういうようににじみ出てくるものなんだ」

 明確な経営理念の下に現状を否定し、絶え間ない自己変革に取り組むセコム。同社の強さの秘密は、経営陣の強力なリーダーシップにより組織に埋め込まれてきた各種の仕組みにありそうだ。

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