「今やそこそこの商品やサービスでは生き残れない時代」と話すのはビジネス誌「Fast Company」の創刊編集長、ビル・テイラー氏だ。
商品やサービスが溢れている今の市場では、少しばかり機能や品質が良い、あるいは多少コストが安い、といった、まあまあの経済的な価値では消費者を引き付けられない。テイラー氏は、突出した価値として、21世紀の病院を目指したミシガン州のHenry Ford Hospitalを例に挙げた。およそ病院らしくない、まるでリゾートビレッジのような施設でホテル並みのサービスが提供され、食事も素晴らしいと評判を呼んでいる。
そうした高級志向でなくとも、組織を挙げて顧客を理解することで特別な存在になっている企業もある。テキサス州サンアントニオに本社を置く、軍関係者を対象にした金融保険会社、USAAだ。総勢1万3000人にも上るカスタマーサービスの社員教育に力を入れ、顧客を理解する企業文化を浸透させている。
「顧客は国内外の基地で働く兵士。研修では彼らと同じ食事や訓練を体験させ、兵士と家族がやり取りする手紙も読む。理解することで顧客と社員の特別な関係を築いている」(テイラー氏)
USAAの例でも分かるとおり、どのような組織になりたいのか? それが極めて重要だ。そして、ソーシャルソフトウェアのような技術は、その取り組みを加速し、企業の競争優位性を高めてくれることに大いに役立つ。人と人のコミュニケーションを可視化し、分析することでナレッジの抽出も容易となり、その蓄積が企業の貴重な資産となる。しかし、その適用は今後、企業の外側へと拡大していくはずだ。それは、パートナーや顧客といった社外の優れた能力を活用することが成否を分けるようになるからだ。
経営層やLOB向けに今年初めて併催された「Connect 2012」のクロージングセッションでは、「Collective Intelligence」(集合知)をテーマに掲げ、企業内外のナレッジや専門知識をソーシャルによって活用し、製品やサービスの開発だけでなく、ベストプラクティスの共有、負荷の高い仕事の分業、あるいは将来予測に役立てる具体的な手法も紹介された。
「これからの企業は、社外の有能な人材や消費者に企業を開放し、世の中の変化に素早く対応していくことが求められるだろう」とテイラー氏。これこそがソーシャル導入の「勘所」かもしれない。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授