国やお役所の対応を、仮に民間企業で行ったとしたら企業は間違いなく崩壊する。そもそもそんな経営は許されない。
人身事故を伴った自動車事故が頻発している。特に通学時の学童を巻き込んだ痛ましい事故が絶えない。これに対する国の無策ぶりがひどすぎ、今後のことが限りなく心配になると同時に、甚だしく腹が立つ。心配と腹立たしさのあまり、無理は承知で、この問題に対する国の姿勢と企業経営とを対比させて検討してみたい。
4月29日群馬県関越自動車道で、大型観光バスが運転手の居眠り運転で高速道路防音壁に激突し、多数の死傷者を出した。これに対し、国や高速道路3社は対策の手を打ち始めている。国交省は5月15日安全対策強化の検討チーム初会合を開いた。最大運転距離670kmや1日9時間運転などの基準の見直し、規制の見直し、監査体制の強化などを話し合う。
一方、東日本、中日本、西日本の高速道路3社は、バスが激突した際にガードレールと防音壁の隙間にめり込んで大事故になったため、全国の高速道路で発見したガードレールと防音壁との隙間約5,100カ所を、約17億円をかけて埋める方針を5月23日明らかにした。
ところが、胸を切り裂かれるような痛ましい、学童を巻き込んだ自動車の人身事故が頻発しているにもかかわらず、国の動きは鈍い。衆知のことだが事故例を挙げると、4月23日京都府亀岡市の府道で、居眠り無免許運転の少年の軽自動車が、登校途中だった小学校児童と保護者をはね、10名の死傷者を出した。
4月27日千葉県館山市で、登校中のバス停にいた小学校児童の列に軽乗用車が突っ込み、1年生が死亡した。現場の県道の片側一車線には幅40omほどの路側帯があるが、ガードレールは設置されていないという。市内道路には同様に歩道の狭い場所が多く、2010年9月には国道410号沿いで、下校時バス停にいた別の小学校児童らに乗用車が突っ込み、4人が重軽傷を負っている。「事故の状況は酷似している」と市教育委員会の担当者が話しているらしいが、なぜ約2年間も放置されていたのか。
5月14日大阪市の市道で、学童保育に向かう小学校児童の集団にいた1年生の女児が、乗用車にはねられ死亡した。こんな痛ましい事故が頻発する中で、どんな手が打たれているのか。例を挙げよう。
文科相は事故頻発を受け、通学路の実態調査を指示していたが、5月15日やっと、まさにやっと通学路の安全対策について「国交省や警察庁と打ち合わせて問題を詰め、事故防止へ対応するよう副大臣に指示した」と、関係省庁と協議を急ぐ考えを示した(産経ニュース5/15)。
館山市教育委員会は5月9日市内小中学校の交通安全指導担当安全主任の会議を開いた。安全マップの見直し、反射板付きジャージーの採用、通学路や通学バス停周辺の危険箇所調査文書配布による危険箇所の把握と対策、ガードレール取り付けの関係機関への要望などを検討した(TOKYO web 5/10)。
京都府と亀岡市は5月19日、事故現場周辺道路の安全対策工事を始めた。6月30日完成を予定し、路面に車両の速度を抑える舗装を施したり、ドライバーに注意を呼びかける標識や看板を設置したりする(yomiuri online 5/20)。文科省にしても国交省にしても、なんとも動きが遅すぎる。しかも、地方任せだ。
さらに問題がある。地検は、亀岡市の事故で無免許運転だった18才の少年に、自動車運転過失致死傷罪より罰則が重い危険運転致死傷罪の適用を検討したが、制御できないほどのスピードや未熟な運転技能などの要件を満たさないとして、適用を見送った。筆者は法律に詳しくないが常識で考えて、「制御できないほどのスピード」とは、居眠り運転をしていれば例え時速5kmだろうが1kmだろうが、それは居眠り運転手には「制御できないスピード」ではないのか。
前夜一晩中運転をしていたから「運転技能未熟ではない」としたらしいが、運転技術とはただハンドルを握って車を動かすことではなく、道交法を理解していることも重要な運転技術の要素ではないのか。従って、無免許者は総合的に運転技術が未熟だとすべきではないのか。無免許運転を戒めるべき当局の自己否定だ。あまりにも、杓子定規の法律解釈ではないのか。法律を早急に見直すべきだ。一刻の猶予もないはずだ。被害者の人権よりも、加害者の人権を尊重していると言いたい衝動に駆られる。
なぜ高速道バス事故の対策が曲がりなりにも取られているのに、学童事故の方は対策がほとんど進まないのか。それには、2つの理由があると思われる。1つは、高速道バス事故の方が死亡者数も多く、事故現場の映像に迫力がある、即ち目立つからだろう。2つには、学童事故の対策の方が比較的困難だからだろう。従って、国やお役所は困難な学童事故の対策を地方に任せっきりにするのである。それはもともと地方の問題だというかもしれないが、国が乗り出さなければならないほど重要問題のはずだ。
事故の相手は、将来のある学童である上に、全国で頻発しているのだ。しかも、工夫をすればいくらでも打つ手は思いつく。例えば迂回路を利用するというが、通学路の迂回規制や禁止をすればよい。禁止できない事情があるなら、迂回路の路面に車の速度を落したり、眠気を覚ましたりする大きな凹凸をつけるなどの工夫を施せばよい。いくらでも手はある。それを、国が音頭を取って全国展開をするべきである。結果的に、国やお役所は事故対策を地方に任せっ放しにする、時間をかける、いや対策放棄にも等しいことをやっていることになるのである。
さて、こんな国やお役所の対応を、仮に民間企業で行ったとしたら、企業は間違いなく崩壊する。そもそも、そんな経営は絶対に許されない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授