頻発する学童自動車事故の無策に激怒──民間企業経営では考えられない生き残れない経営(2/2 ページ)

» 2012年06月04日 08時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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民間なら許されない

 民間企業で、仮に大事故の対策に集中して小事故を軽視したり手を抜いたり、あるいは企業体質に関わる根深い問題の解決をローカルの部署に任せて解決に遅れを来たしたりすると、その関係者は即刻責任を問われるか、企業として社会的制裁、即ち企業ブランドや売上高にマイナスの影響を及ぼす。だから、民間企業は国やお役所に比べて、はるかに敏感でいなければならないし、厳しい対応をしなければならないのである。

 例を挙げよう。中堅の某産業機器メーカーが、ある製品の出火事故を市場で起こした。原因は、原価低減を理由に国内調達から海外調達に切り替えた重要電気部品だった。関係部署あげて対策に奔走している時、品質管理部署の係長がふと思いつき、過去2年間で国内調達から海外調達に切り替えた重要電気部品について調査をした。5件が見つかった。トップの指示で早速その5件について詳細試験、過酷負荷試験を再実行するチームを全社挙げて編成し、当面の大問題の社外事故対策とは別に活動を即刻開始した。

 民間企業は、対応いかんで生きるか死ぬかを実感している。大事故に関わっていながら、ポテンシャルのある案件を発見したら、それが小案件でも、不急案件でも、直ちに大事故対策と平行して手を打つのである。国や官公庁のようにのんきにはしていられない。

 さらに、中堅の某総合商社の例である。新入社員の離職率が高すぎるという相談が、筆者にあった。大学卒新入社員の3年以内の離職率が、全国平均で30%強にもなる(朝日新聞 2012.5.29.)といわれ、それ自体高いが、その商社では40%を超える。社内に入って調べてみると、多くの問題と決定的要因があることが分った。

 多くの問題とは、例えば離職者が出るとその都度当該部署の長が厳しく責任を問われ、決定的に叩かれる。さらに、社内でモラールに関わる問題が頻発していた。例えば複数の地方支店で、課長が酒席の後で女子事務員に暴行を働き訴えられたとか、係長が部下に対して人権侵害の暴言を常時吐いたため苦情が本社に上げられたとかというトラブルが発生していたが、その都度当該支店長が厳しく責任を問われていた。

 責任を問うのは当然と言えば当然だが、全社的に手を打とうとされていなかった。加えて、定年退職を間もなく迎える社員に対して、定年が1カ月後に迫っても本人から催促があるまで人事部門から何の説明もなかったとか、妊娠をした女子社員に対して上司が婉曲に退職を勧めたという問題があっても、定年退職者を扱うマニュアルを見直そうともせず、退職勧告した管理職に注意するでもない。

 要するに、新入社員が早々に離職したくなる要因が全社にまん延していたのに、トラブル発生の都度直接管理者の責任を厳しく問うだけで、全社的抜本策を講じようとしなかった。筆者の問題指摘と改善の提案を受けて、トップが素早く動きだした。

 民間企業は、問題に気がつくと各部署任せになっていることを放置せず、直ちに抜本策を全社的に打つ。国やお役所のように地方任せで放置し、時間を無駄にすることはしない。

 民間企業は、今回の学童自動車死傷事件に対する国やお役所の無策を他山の石として、肝に銘ずべきである。とはいうものの、それは民間企業にとっては当然のことであり、その当然のことをわざわざ国やお役所への警告の意味でここに記すのも、実に情けない。

 (1)事故や問題、トラブルを放置することはもちろん、解決に時間をかけるべきでない。

 (2)話題になる大事故ばかりに注力して、比較しての小事故や将来の事故の芽に対して手を抜くことは、絶対避けなければならない。

 (3)全社に波及する問題に対して、可能な当面の手だけを打ち、しかも各部署に任せっ放しにすることなどせず、抜本策を全社規模で打つべきである。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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