日本の働き方に革新をもたらしたい――アデコ 奥村社長ビジネスイノベーターの群像(1/2 ページ)

市場のグローバル化、少子高齢化など企業を取り巻く環境は明らかにこれまでとは違ってきている。アデコの奥村社長は人々の生活、働き方の多様化を実現するために「better work(よりよい仕事)、better life(充実した人生)」をサポートしたいと話す。

» 2012年08月24日 14時00分 公開
[聞き手:浅井英二、文:山田久美,ITmedia]
アデコの奥村社長(撮影:武藤 奈緒美)

 雇用形態の違いによる賃金格差や若年層の失業率の問題など、現在、日本企業は雇用に関するさまざまな問題を抱えている。そこで、世界60を超える国と地域に5500拠点のグループネットワークを展開、人材サービスのイノベーションに取り組むアデコグループの日本法人、アデコ株式会社の奥村真介社長に日本における雇用について話を聞いた。

 「現在、日本では正社員、非正社員といった雇用形態による目に見えない“区別”が存在しているが、本来は“働きぶり”によって評価されるべきではないだろうか」今年1月に代表取締役社長に就任した奥村氏はこう話す。

 現在の日本の雇用制度では、働き方によっては、業務内容が縦割りで細かくモジュール化されている。そのため、いくらやる気があってもさらにレベルの高い仕事や、幅広い仕事に挑戦したくてもその機会が与えられにくい状況があるのではないか、と奥村氏は指摘する。

 「働き方による区別は、“一生懸命やっても報われない”といった閉塞感を生み、仕事に対する労働生産性や発展性が著しく低下してしまう懸念がある。これは、日本企業にとって、ひいては日本にとって大きな損失だ。急速な少子高齢化とグローバル化が進む中、日本企業が国際舞台で競争力をつけるためには労働生産性の向上は必須課題だ」(奥村氏)

働く人の労働生産性=スキル×モチベーション

 日本の非正社員の賃金レベルは、諸外国に比べて高い部類に入る。それにも関わらず、仕事のモジュール化によって、スキルが高めにくくなっていることが、最大の問題だ、と奥村氏はみている。諸外国では賃金レベルはその人の労働生産性によって設定される。つまり、日本と比較して、頑張る人が評価されるような仕組みがある。一方、日本ではスキルと専門性が高くとも、雇用形態によっては、評価されにくい傾向にある。

 これに対し奥村氏は「労働生産性が低い場合の賃金レベルを諸外国並みに下げるというのではなく、労働生産性を向上させる施策を講じることが重要だ」と話す。そのために人材サービス企業として尽力すべきことは、スキルとモチベーションの向上だという。

 「労働生産性はスキルとモチベーションの掛け算で決まる。スキルが高くても、モチベーションを上げにくい状況では、労働生産性を向上することは難しい。それに対し、私たちは、派遣社員が派遣先で最大の労働生産性を発揮できるよう、モチベーションを上げるサポートと施策を強化している」(奥村氏)

 例えば、同社でホテルのルームサービスを担当している同社派遣社員の話がある。

 そのホテルでは、顧客がルームサービスを頼んだ際、パンを自由に温めることができるようオーブントースター貸し出している。ところが、ある日常連客がルームサービスを頼んだ際トースターが稼働せず、そのことをフロントに訴えたが納得のいく回答が得られず、常連客はそのホテルを利用するのを止めてしまった。実はトースターが使えなかったのは、客室の主電源が入っていなかったからだった。

 それに対し、アデコではそのホテルのルームサービス業務に派遣社員が従事する際「あのホテルの客室の主電源は分かりにくいところにある。お客さまが電気を必要とする場合も多いと思うので主電源を確認し、必要に応じてお客さまにお伝えするように」とアドバイスした。

 派遣社員が現場で実践したところ、顧客が感動し感謝の言葉をホテルの支配人に届けた。派遣社員は支配人から高い評価を受け、その結果、本人の仕事に対するモチベーションが上がった。ただ担当業務をこなすのではなく、その目的は何なのか、そのためには何が必要か考えることによって仕事に充実感が生まれ、結果として、労働生産性も大幅に上がる。

 「仕事上、もし分からないことがあれば、派遣先で聞くように」と言って派遣社員を送り出すのではなく、その仕事の前後の工程を含めた全体像や自分が果たすべき役割を明確にし、職場の状況などを事前にできる限り把握し細かくアドバイスした上で送り出す方が、モチベーションが上がり、先方でより高い労働生産性を発揮できるという。

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