メンバー一人ひとりが問題を生み出している当事者であるという認識をし、協力して解決していくという意識を共有する。
アウトドア用品ブランドのパタゴニア 日本支社は、部門という立場の違いを越えて理念を追求する素晴らしい取り組みをしています。
パタゴニアは「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」という理念を掲げており数々の活動をしているのですがその一環として、製品を長く愛用してもらうために修理サービスの利用を顧客に促しています。
現在国内の修理受注件数は年々大幅に増えており、2012年現在では年に約1万2000件にも達するようになりました。しかし、一方である問題が発生しました。修理センターの処理能力が不足してしまい、修理期間が元々の納期よりも1カ月延びるなど、注文通りに修理を提供することができない状況が生まれてきたのです。設備や技能が必要とされるため修理センターの処理能力を一朝一夕で高めることはできません。その結果、店舗側と修理センター側に徐々に溝が生まれ始めていました。
「修理に時間が掛かりすぎる」「お客さんの要望にもっと柔軟に応えて欲しい」「外部の修理業者を利用してでも早く対応したい」という店舗側の主張と、「人員や設備に限界がある」「修理伝票の記載ミスがないように徹底してほしい」「外部の業者を利用したら修理の品質が担保できない」という修理センター側の主張。それぞれ正当な理由であるだけに関係性のこじれはなかなか解消しづらい状況でした。しかし、修理サービスの効率化と品質管理のためには見過ごすことのできない問題です。
パタゴニア日本支社長である辻井隆行氏は、修理部門の担当者と店舗マネジャーが一堂に会して対話を行う場を設け、わたしはそこにファシリテーターとして参加しました。まずは、現在起きていることを明らかにしていくために、参加者がそれぞれの観点から感じている問題、不安、不満、諦め、タブーなどをポストイットに書き出して壁に貼りました。
これにより普段なかなか言えないことを皆で共有し、自分と同じように悩み苦しんでいる仲間がいることや、自分の視点からは気付かなかった仲間の苦労などが見えてきます。次に、発言者との位置関係で自分の賛否を表現するコンステレーションという手法を使って対話を行いました。
先ほどの問題の棚卸しを通じて、それぞれが自分の業務の範囲内で最善を尽くしており、誰も手を抜いているわけではないということは感じているはずなのですが、それでもやはりお互いが譲ることのできない正当な理由があることから徐々に意見は対立し、話し合いはすぐに硬直状態となってしまいます。硬直状態は1時間近く続きました。しかし、あることがきっかけで場が動き出します。
一人のメンバーが「会社がしていることが見えない。やるべきことはしていると言われても現場に責任を押し付けているように思えてならない」という発言をした際に、辻井氏は今まで社員には今後の方向性などを十分に伝えてきたつもりになっていたということに直面しました。
普段から部下に対して「全体の利益を考えろ」と言っていながら経営に状態を十分に説明できていなかった自分の姿、そして、そのことが修理部門と店舗の対立だけではなく、修理の遅れを招く原因となっていることが「感じ取る(Sensing)」によって見えてきたのです。部下達が相手の立場に立てていないと考えていた辻井氏が、実は自分が部下達の立場に立てていないということに気付いた瞬間でした。
そして、まずは自分が、現在の体制でできる対策を話し合いたいという自分の立場、意見から降りることを決め、メンバーに今後最低でも1カ月に1回は修理センターを拡張する投資の進捗状況を関係者に伝えることを約束しました。
この約束は行動としては小さなものかもしれませんが、しかし、支社長という立場にある辻井氏が問題を自分以外の何かのせいにするわけではなく、部下の目玉を取り入れた上で、今出来うる最善の行動を約束したことは、メンバー一人ひとりが問題を生み出している当事者であるという認識をし、協力して解決していくという意識を共有する大きなきっかけとなりました。
現在、パタゴニアはこの課題に取組んでいる真っ最中ですが、事務スタッフを増員するなど修理センターの処理能力向上に向けて協力しながら一歩一歩前進しています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授