JAL再建、そして20あまりの医療機関の黒字化など、京セラ発祥の「アメーバ経営」は他の企業などでも効果を発揮している。10月26日に開催された第25回ITmedia エグゼクティブセミナーの特別講演「アメーバ経営と経営改革〜企業経営の原点を考える〜」から、その考え方や実例について紹介する。
演壇に立ったのは、KCCSマネジメントコンサルティング(略称KCMC) 代表取締役社長の浅田英治氏。KCMCは京セラコミュニケーションシステム(略称KCCS)の100%子会社、京セラの孫会社に相当する。
「アメーバ経営は、かつてグループ内で門外不出としてきたが、対外的にもコンサルティングを行っていくことに方針転換、その専門の会社として設立されたのがKCMC。アメーバ経営の理念の浸透と、経営システムの改革を通じてクライアント企業を変革していくのがわれわれの事業。森田直行会長はアメーバ経営の制度化に深く関わり、稲盛和夫京セラ名誉会長とともに日本航空(JAL)の再建にも携わった」(浅田氏)
同社では、アメーバ経営のコンサルティングを行うほか、ゼミナールも手掛けている。その顧客は製造業が56%と最多だが、さまざまな業種に及んでいる。また、規模的には中小・中堅企業を中心に、従業員1000人以上の企業や上場企業まで幅広い。
アメーバ経営の核となる考え方は何か。浅田氏は、稲盛氏の言葉を引用しつつ説明する。
「“会社経営とは一部の経営トップのみで行うものではなく、全社員が関わるものだとの考えに基づき、会社の組織をできるだけ細かく分割し、それぞれの組織の仕事の成果を分かりやすく示すことで全社員の経営参加を促す経営管理システムである”というのが、稲盛会長の言葉。特に重要なことは“全社員の経営参加”だ」(浅田氏)
その、全社員の経営参加を促すためのポイントは以下の3つ。
小さな組織単位ごとに時間当り付加価値を算出し、タイムリーな情報として活用できるようにするため、アメーバ経営の実現にはITの活用が必須、特に会計システムが重要となる。京セラグループの会計システムは、プラットフォームこそ時代に合わせて変えているものの、基本ロジックは受け継ぎながら使い続けているという。
「収支計算については、家計簿のように誰にでも分かりやすく示すことが大切。そして社内では、社長をはじめ全員が、管理会計ベースで話をする。誰もが自分たちの活動成果を分かるようにすることで、各自それぞれの立場で考えて行動することが可能となり、全員参加の経営が実現する。なお、財務会計と管理会計は完全に連動しなくても仕方ない、とする企業もあるが、アメーバ経営においては管理会計は必ず財務会計と連動させることも大切だ。アメーバ経営を導入した企業からは、経営の見える化やリーダー育成などに役立っているとの評価を受けることが多い」(浅田氏)
アメーバ経営の応用範囲は広い。例えば医療機関でも導入が進められている。医療機関では「京セラ式病院原価管理手法」と名を変えているが、基本的には考え方や手法などはほぼそのまま適用されている。
「医療機関向けには、約10年前から研究を開始しており、7年ほど前から事例が出始めてきた。現在では20あまりの病院に導入され、全て黒字化に成功している。医療機関は営利企業とは違うが、地域の人たちにとって重要な存在であり、地域のためにも病院は生き残る使命がある。そこで収支バランスの適正化が必要となり、そのために原価管理の見える化が求められてくる」(浅田氏)
医療機関に特有なのが、独特の組織体制だ。医師、看護師、放射線技師、薬剤師などといった職能別に組織され、その中でも医師のみが経営に関わる、という体制が一般的である。たしかに医療現場を取り仕切るのは医師の役割であり、また日本の医療制度上では医師の診察や治療行為を中心に診療報酬が規定されているので、医療機関の収入に責任を持つのは専ら医師の役割、という考え方になっていったのだろう。
「しかし医師は通常、全職員の1割ほどの人数でしかない。これでは経営に関与する人間が少なすぎる。看護師など他の専門職の人員も経営を考える素地があるはずだが、ほとんど経営に関与することがない仕組み。“京セラ式”ではこれを改め、科目ごと、病棟ごと、など細かく組織を分けるようにした」(浅田氏)
そして、一般企業におけるアメーバ経営と同じく、この細分化した組織それぞれについて管理会計を行う。医療機関の場合は収入となる診療報酬が国によって細かく定められているため、これを各部門の協力関係に応じて分解し、具体的な金額として配分していく。そうすることで、放射線科や薬剤科、各病棟(看護師)などコメディカル部門の収益が明確になり、時間あたりの収入や原価が見えてくる。
「こうして、各部門が自主的に運営でき、それぞれの持ち場や立場において果たすべき役割が明確になって、自立の精神が育ち、自発的な改善へとつながっていく。例えば、同じ有効成分を使った薬剤でも製剤の形態や用量によって何種類もあるが、その薬剤の処方ルールを院内で統一して薬剤の在庫を減らそう、といった取り組みが行われるようになる。“京セラ式”を導入した病院からは“職員の意識を変える手法”という評価を得ており、どの病院でも適用できると考えている」(浅田氏)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授