JAL再建や病院黒字化の事例にみる「アメーバ経営」とは――KCMC 浅田社長ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2012年12月04日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]
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アメーバ経営の考え方に基づいたJAL再建指導の具体策

 近年で最も注目を集めたアメーバ経営の適用例といえば、2年あまりで再建に成功したJALの事例だろう。浅田氏は最後に、稲盛氏に加え森田氏も深く関わったJAL再建計画の様子を紹介した。

 「稲盛がJALの経営に参画した時点で、既に会社更生計画ができていた。稲盛は、この計画を着実に実行させれば再建はうまく行くと判断し、フィロソフィによる幹部および社員の意識改革と、アメーバ経営による部門別採算制の導入を通じて、その計画実現の確実化を目指した」(浅田氏)

 なお、稲盛氏らがJAL経営に参画した当初、社内でヒアリングを行ったところ「安全は全てに優先する」「公共交通機関として赤字路線も飛ばす」「何かあれば国が救ってくれる」といった意識が見えてきたとのこと。また「会社の利益に責任を持つのは誰か」と尋ねて回ったところ、当時の社長が「私くらいしかいないのではないか」と語ったという。かつてのJALの、収益に対する意識の希薄さがうかがえる。

 こうした背景を踏まえ、再建1年目は、まず会議を変えたと浅田氏は説明する。

 「更生計画に基づいた業績報告会を最も重要な会議とし、その全てに稲盛が出席することにした。目的は、役員や幹部の数字に対する意識を高めること。例えば、この会議では“予算”という言葉を封印し“計画”と表現するように改めた。予算といえば“使えるもの”というイメージだが、計画は“変えようがあるもの”。すなわち、いかに経費を削減して予算を残すか、という会議に変えていったのだ」(浅田氏)

 また、各本部の数字については、本部長が自ら詳細な説明をし、質疑にも自分で応じるようにした。部下任せにさせないことで、本部長が数字に責任意識を持つように仕向けたのだ。

 1年目は他にも、体制変更や収支把握の迅速化にも取り組んでいった。組織としては「路線統括本部」を設け、旅客および貨物の全路線の収支に責任を持つようにした。そして並行して、常に変動する旅客数に応じてこまめに機材を変更するなどの対応ができるよう、1フライトごとの収支を把握できるシステムを整備していった。

 実はそれまで、各路線について極めて緻密な収支報告が得られていたものの、その数字は1カ月ごとの合計であり、情報が出るのは2カ月遅れだった。これでは情報が遅すぎて対策ができない。そこで、各便についてフライト翌日にはコストのうち主要なものと収入が判明するようなシステムを新たに作ったのである。

 「導入まで6カ月もないという短期間のスケジュールだったが無事に稼働し、スピーディに数字が把握できるようになった。こうして部門別採算を2011年4月から開始、大震災後の混乱した状況の中でありながら、最初から単月黒字を出すのに成功した。この部門別採算システムは、2012年4月に更なる改善を施し、また関連会社への展開も進められている」(浅田氏)

 JALでは引き続き、アメーバ経営のさらなる改善や、JAL本体のみならずグループ全体での浸透、そして役員や幹部の人材育成などに取り組んでいるとのこと。

 浅田氏は、講演を次のように締めくくった。

 「事業目標を明確に定めること、経営管理システムを確立すること、そして幹部・社員の人格の向上、企業経営の原点としては、この3つの要素を挙げたい。事業目標や経営管理システムを通じてオープンな企業風土とし、それを通じて全員参加の経営を実現し、リーダーを育成していく。企業の存続の要諦とは、こういったことだと考えている」(浅田氏)

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