IT革命の成果を、そして個人の能力を生かす組織へ変革せよITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

7月17日に開催された第21回 ITmedia エグゼクティブフォーラムで、“iモードの生みの親”夏野剛氏が「新たなビジネスモデル創出の極意」を語った。

» 2012年08月23日 08時00分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 2008年にドコモを退職した後、現在では慶應義塾大学 政策メディア研究科 特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、ぴあなど複数の取締役を兼任する夏野剛氏。今回のITmedia エグゼクティブフォーラムでは「スマートフォンの先駆者に学ぶ 新たなビジネスモデル創出の極意」と題し、今の時代に対する認識と、その時代の中で求められる組織の姿、そしてリーダーが果たすべき役割について、講演を行った。

IT革命により人類の進化のスピードは今や最大に

慶應義塾大学 政策メディア研究科 特別招聘教授 夏野氏

 最近の約10年でITの急速な発展に伴い3つの革命が進行中だと夏野氏は説明する。しかし、その革命を正しく認識していないリーダーも多いのではないか、と語った。その3つの革命とは、「効率革命」「検索革命」「ソーシャル革命」。

 「効率革命」では、ITの活用で業務のスタイルが変わり、特に顧客接点が大きく変わった。例えば航空会社はWebでの航空券販売が主となって非効率的な電話での販売チャネルは縮小、業務の効率化が進んだ。証券や保険などのネット販売も浸透しつつある。また、地方の小規模な小売店などでも商圏に囚われることなく、自らのこだわりを売りにして高級商品の販売が可能になった。

 「われわれの仕事も変わった。昔は社内に『パソコンコーナー』があって、必要なときだけそこで仕事をしたものだったが、携帯電話やPCは全員が持っていて当然の時代となっている。この効率革命については、多くの人が認識しているが、その価値はしっかり認識されていないのではないか。あらゆるビジネス上の制約が取り払われていく、産業革命にも匹敵する革命だと考えている」(夏野氏)

 2番目の「検索革命」は、個人の情報収集能力を飛躍的に拡大させた。例えば先行研究を探すのも容易になり、研究者は誰も手掛けていない自分独自の分野を効率的に探せるようになった。また、もともと知識のなかった人でも検索を通じて膨大な情報に触れることができるようになり、ネット上には多数の「にわか専門家」が登場するようになってきた。情報を収集した結果から学ぶことで、長年に渡る専門教育を受けたり業務経験を積んだ人に迫る知識を持てるようになったのだ。さらに、情報を公開すれば見てもらえる、フィードバックが得られるというインセンティブから、積極的な情報発信をする者も増えてきている。そして、個人の情報発信能力が飛躍的に向上したことによる革命が、3番目の「ソーシャル革命」だ。

 「Twitterで1000人のフォロワーがいれば、自分の発言を1000人に伝えることができる。ちょっとしたホールで講演をしているようなもの。フォロワー1万人なら武道館クラス、10万人ともなれば、さすがに一堂に集まることはできない。個人の気付きや発見を、そういう多人数にシェアすることが可能なのだ。しかも、ソーシャルメディア上では、それほどの数の相手と、『共振』が生じる。これまで、気付きや発見の共有は、まず同時代の人に共有され、それが次の時代の人たち伝達されていく形で、ゆっくり進んでいた。それが瞬時に多くの人に共有されるようになったことで、人類の進化スピードは歴史上最大となっているのではないか」(夏野氏)

「3つのIT革命」

 検索革命やソーシャル革命は、個人の能力の及ぶ範囲を過去にないほど拡大させることになる。検索やソーシャルメディアを通じて情報の収集や発信に集中する人物が、より大きな存在感を持つようになってきた。その結果、社会や組織のあり方も変革を迫られている。

 「今では、100人の平均的な人材より、1人のオタクの方が強い時代。オタクは好きなことに自分でのめり込んでコミュニティを作っていく。組織は、個人力を抑える組織から、個人力を最大化する組織へと変化する必要がある。組織階層などはもちろん、採用や教育も変わってくる。オタクのように突き抜けた人というのは、試験で優秀かどうかでは分からず、同じく突き抜けた人でないと評価できない傾向がある。逆に、好きでもないのに入ってきた優秀な人材など必要ないだろう、とも言える。研修や教育も、平均的に働くことを目的とした研修など無意味となり、多様性を前提としたものになってくる」(夏野氏)

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