モノ作りからコト作りへ。モノ作りは、製品を開発するための階層型の組織。コト作りは、人が中心でネットワーク型の組織による支援体制が必要。つまり社員の成長が会社の成長につながる「自律社会」となる。
12月4日に、反転攻勢へ、モバイルワークスタイルと経営革新をテーマに「第26回 ITmediaエグゼクティブセミナー」を開催。基調講演には、シグマクシスの代表取締役会長 倉重英樹氏が登場し「コト作りモデル考察」と題した講演を行った。
ITの進展とビジネスモデルの変化には、関係性がみてとれる。紙と鉛筆からスタートした情報技術の歴史をたどると、1516年に郵便システムが誕生し、1844年には電報、1876年には電話、1900年にはラジオ、1925年にはテレビが登場した。その後FAXやデジタルカメラ、ビデオカンファレンス、モバイルフォンなどが開発され、そこから生み出されるデータにより現在ではビッグデータの時代が訪れている。
バックエンドのテクノロジーとしては、1964年に世界初の汎用コンピュータであるIBM S/360が登場して以降、人間の仕事をコンピュータで自動化することで、業務改善を実現してきた。また2000年前後には、ERPやSCMなどのアプリケーションを導入することで、システムの全体最適を目指すという方向性も生まれた。
「当時はコンピュータを利用することで、コストを削減することに重きが置かれていた。現在はコストを削減すること以上に、新しいビジネスモデルの創造や顧客との関係を強化する、あるいは知識を管理するなど、新たな価値を生み出すことに重きが置かれている」(倉重氏)
新たな価値を生み出すためには、最適なビジネスモデルが必要になる。従来型のビジネスモデルの1つとして、「プロダクトビジネスモデル」がある。これは、市場のコモンニーズに対応して製品を製造するビジネスモデルである。このとき顧客と提供者の関係は単純な取引関係で、マーケットショアの獲得が重要業績評価指標(Key Performance Indicator:KPI)であり、製品競争力と営業のカバレッジの拡大が主要成功要因(Critical Success Factors:CSF)となる。
このモデルで重要視される価値は「付加価値」だ。いかに低コストで、新製品を開発提供、あるいは新しい機能を付加するか、という視点で競争が展開されてきた。「しかし近年、付加価値だけでは製品が売れなくなっている」と倉重氏。そこで登場したのが「課題解決価値」という考え方である。
付加価値が「作る側の価値概念」であるのに対し、課題解決価値は「買う側の価値概念」である。その商品が、自分の抱えている課題をどれだけ解決してくれるかで、その商品を買うか買わないかを買う側が判断する価値概念である。
この課題解決価値に対応するモデルが「ソリューションビジネスモデル」だ。
「1つの商品ですべての顧客を満足させることはできない。そこで顧客固有のニーズを満たすことができる“サービス”を提供することで顧客満足度を向上させるのがソリューションビジネスとなる」(倉重氏)
ソリューションビジネスでは、顧客との関係が長期的な取引関係になり、求められるKPIはクライアントシェアに、そしてCSFは課題を把握する能力やその課題を解決する能力となる。
プロダクトビジネスは“モノ作り”であり、ソリューションビジネスは“コト作り”でもある。モノ作りは、確実に売れるものだけを作ることから利益志向であり、モノを作るためのアルゴリズムがあり、プロセスを重視し、効率性を追求する。モノ作りにおいてはプロセスを忠実に守る人材(コスト)が求められる。
「モノ作りは、よく工場にたとえられるが、製品を開発するための仕組みが中心であり、階層型の組織で業務管理と労務管理に基づいて、利益を拡大することが会社の成長につながる“管理社会”といえる。一方、コト作りは、課題を解決することが最大の目的であり、目的が明確でなければ実現できない」(倉重氏)。
また倉重氏は、「コト作りにはアルゴリズムは存在せず、トライ&エラーを繰り返し、答えを導き出すヒューリスティックなアプローチが有効になる。したがって、効率性ではなく、創造性の追求が重視され、どの結果に到達したかが重要になる。これは誰でもが実現できるわけではなく、特定の人に依存するため人財(アセット)が必要になる」と話す。
コト作りは、人が中心であり、ネットワーク型の組織による支援体制が必要である。つまり社員の成長が会社の成長につながる「自律社会」となる。
倉重氏は、コト作りの世界を実現するためのビジネス環境について、次のように語っている。「現在、工業社会から知識社会に移り変わろうとしている。ピーター・ドラッカーは知識社会を、知識が最も重要な財産、資源となる社会と定義している。この社会変革を多くの人が認識するまでには30年掛かると言われている」
われわれの生きる社会は、急速にデジタル化、グローバル化、ソリューションが進んでいる。特にグローバル化では、世界を相手に闘わなければならず、そのための競争優位性を確保しなければならない。さらにテロリズムや自然災害、G0(無極化)も視野に入れておく必要がある。
倉重氏は、「企業はグローバル化という未体験の世界やテロ、自然災害などの予測困難な状況においても、持続的に成長しなければならない。そのためには常にイノベーションを推進することが必要」と言う。辞書では、イノベーションを「刷新」や「新機軸」と訳しているが、シュンペーターは生産技術の革新だけでなく、新商品の導入、新市場・新資源の開拓、新たな経営組織の実施などを含む概念と定義している。
日本では技術革新という狭い範囲で利用されることが多いが、このイノベーションを創造するメカニズムは、まず解決に必要な情報の「検索」からはじまり、情報の有用性を「評価」し、情報から意味合いを「抽出」、意味合いから新たなアイデアを「組み立てる」という4つのフェーズで構成される。
このメカニズムは、フェーズ全体として「知の合成」であり、検索と評価のフェーズは「知の適用」で実現される。また、イノベーションの推進は、知の合成と知の適応のほかに、「延長線上の変化」と「大胆な変化」の4象限で構成される。
この4象限の延長線上の変化と知の適応は、従来の日本企業の強みである「ベストプラクティスの模倣(Improvement)」であり、大胆な変化と知の適応はIBMが推進した「戦略的事業構造転換(Transformation)」。ハイテク企業が進める延長線上の変化と知の合成は「機能の高度化や合体(Invention)」であり、Googleや3Mなどの企業による大胆な変化と知の合成は「新たな事業・価値の創造(Innovation)」となる。
倉重氏は、「Improvementは現場、Transformationはトップ経営層、Inventionは技術陣、Innovationは組織の変革」と話している。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授