世界を見ながら改革を進める醍醐味はグローバルカンパニーならでは。組織や国の壁を越えてソニーグループ一丸となって進む「One Sony」実現に向け、提案する情報システム部門を目指す。
日本発のグローバルブランドの代名詞ともいえるソニーで、2011年から情報システム部門を率いているのがチーフ・インフォメーション・オフィサー(CIO)の堺文亮氏。入社以来情報システム部門を歩み続け、主に担当してきたのはインフラという異色のCIOだ。ある時期は海外の赴任先からも「企業のIT部門」を見てきた堺氏に、現在抱える課題やあるべき姿を聞いた。
――堺さんは1980年のソニー入社以来、ずっと情報システム部門を歩んできたが、中でもサービスを作るアプリケーションではなく、OSなどの基盤を担当する技術畑が長かった。
同じITでも、わたしが入社から10年間在籍した技術部門は、会社のビジネスに直結したサービスを作るアプリケーション担当のように表に出ることがほとんどない。ほかの人の仕事が終わった夜間など、システムがあまり使われない時間帯に仕事をするのが技術担当。当時、CIOとして情報システム部門のトップを務めるなど想像もしなかったし、CIOになって他社の方とお話ししてもあまり、同じようなキャリアの方にはお会いしていないと思う。
――昨今は、ビジネスに直結するアプリケーションにばかり光が当たる傾向があるが、土台となる基盤技術の重要性にも、もっと光を当てるべきではないか。
その通りだ。「ビジネス部門からの要求に応えてシステムを構築する」という風潮が強まり、IT部門がビジネスを理解することが重視されているが、それだけでは足りない。単に、ビジネスを理解してシステムを提案する「だけ」なら、ソニーのIT部門でなくても外部のITコンサルタントにもできる。
高い技術力やテクノロジーへの知識を持ち、ソニーのITを深く理解したうえで良い情報システムづくりができないと、企業のIT部門としては役に立たない。会社全体としても、こうした力を持ったIT部門づくりを、もっと重要視すべきだろう。
――企業のIT部門の役割は、変わってきているのか?
大きく変わっている。昔は、実現したいことに対して、メインフレームなど、適用できる技術に制約があったために、ビジネス側からの要求すべてに応えることはできなかった。しかし今では、テクノロジーが進歩し、お金さえあれば何でも作ることができる。
今の企業のIT部門は、ビジネス側の要求に対して「コストが増える」「オペレーションが複雑になりすぎる」などの理由を示しながら、「こんなシステムを作ると会社のためにならない。やめるべきだ」などの提言もできなくてはならない。つまり、ビジネス部門とIT部門は単に依頼をする側、受ける側という「縦の関係」ではなく、対等に議論しあう「横の関係」が必要だ。そのためにはわれわれIT部門が、もっと力をつける必要がある。
――昔の企業のIT部門は、最新のテクノロジーを常に研究し、自社のビジネスにどう生かせるかを考える、研究開発部門的な機能も備えていたように思う。
確かにそうだ。ソニーにもそういった役割を持った人はいるが、機能としては弱まっているかもしれない。対応しなくてはいけない技術・領域の広がりなど仕事量が増えているのも一因だろう。今は優秀な外部パートナーがたくさんいるため、自分が忙しくなると、こうしたパートナーにシステム構築を依頼するようになる。自分で考えたり、手を動かして汗をかくことが減り、どんどん力が弱まってしまう。
「本当は自分でも構築できるが、コスト効率を考えてインドや中国などに任せる」というならいいが「どんな技術を使っていいか分からず、構築することもできないから人任せにしてしまう」ということではいけない。
「技術のことは分からないから外部パートナーに」「構築は安価な中国に」「BPR(業務改革)はユーザーから言われたことだけやる」など、今は逃げようと思えばいくらでも逃げられる。しかし、逃げるようになったら企業のITはおしまいだ。
――そうした「丸投げ」により、自社システムがブラックボックス化して困っている企業も多い
そうだと思う。このためわたしは、企業のIT部門に重要な「3つの軸」を、ソニーの情報システム部門のメンバーに伝えている。1点目は「ビジネスを理解する」こと。これができていないと、ビジネス部門と会話し、議論することはできない。
2点目は「グローバルな視野で考える」こと。システムを考える、作る、データセンターを置く、オペレーションを担当するなど、それぞれどの国でやるのが最適か、日本にこだわらずグローバルな視野を持って考えることが大切だ。
3点目は「技術の目利きになる」こと。世の中で高く評価されている技術であっても、もしかしたらソニーでは使えない、使わない方がいいものがあるかもしれない。さまざまな技術を見極める「目利き」の役割を持ち、的確な判断ができるようにならないといけない。そして、あるべきシステムの姿を「提言」できないと、時代に取り残されてしまうだろう。
この3つの力を、一人ひとりが持てれば最高だが、少なくともIT部門全体で持ち合わせなくてはならないと考えている。
――こうした考えを持つに至ったきっかけは?
1993年にスイス、そのあと米国のサンノゼ、ニューヨークと、合計7年間を海外で過ごしたことが大きかった。日本にいた頃はとにかく忙しく、目の前の仕事をこなすのに精いっぱいで、立ち止まってじっくり考える時間がなかった。海外赴任中は、自分でマネージする仕事が増えじっくり考えることができたのに加え、同じソニーでも全く違う考え方に出会い大きな刺激になった。
例えば、日本は何よりも質を優先するので、システム構築時もテストに膨大な時間やお金をかける。稼働開始後にトラブルが起こることは許されないという文化だった。一方、海外では全体のコストを抑えるためにも、なにがなんでもトラブルの数をゼロにすることに固執しない合理的に物事を考えることも学ぶことができた。。それまで全く疑うことのなかった日本式のやり方以外にも、さまざまな方法があることに気付かされた。
こうした自分の経験から、若い人を育てるには、違った環境、文化を経験することが大切だと考えるようになった。海外へ多くの人を送り出しており、昨年も1人、ブラジルに送った。すぐに役立つかは分からないが、将来役立つ経験になるはずだ。こうしたチャンスに賭けてみようとする若い人に「場」を与えるのがわたしの仕事のひとつだと考えている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授