歌うことと話すことは別のことのように思われているが、何かを人に伝えたいという気持ちは歌も話すことも同じ。声が出ると自信もつき、心から言葉があふれてくる。
アイティメディアが開催している「ITmediaエグゼクティブ勉強会」にボイストレーナーで合唱指導者、ピアニストでもある永井千佳氏が登場。合唱指導者・ボイストレーナーとしてのノウハウと企業におけるプレゼンテーションの経験を生かした声の出し方に基づいて、「ビジネスリーダーのための安心、信頼の声を作る」と題した講演を行った。
「わたしは、本当は人前で話をするのがとても苦手。講演開始5分前の案内を聞くと逃げて帰りたくなる。初めて企業人の前でプレゼンテーションをしたのは2011年のこと。つい最近のことだ。当初は名だたる企業の社長やコンサルタントを前に、緊張して声が出なかったが、肝を据えたらいきなり声が出るようになった」(永井氏)
歌うことと話すことは別のことのように思われているが、何かを人に伝えたいという気持ちは歌も話すことも同じ。自ずと「歌もプレゼンテーションも同じところでしゃべるのだ」ということに気がついた。声が出ると自信もつき、心から言葉があふれてきた。「聴講者も本当に楽しそうにわたしの言葉に耳を傾けてくれ、非常に良い相乗効果が生まれた」と永井氏は当時を振り返る。
この経験から企業で研修を始めることになり、そこで誕生したのが「ビジネス・ボイストレーニング」である。
ある企業でのこと、社長から技術は一流だが話が不得意なプログラマーがいるという相談を受けた。当初はプログラマーという職業がどのようなものか分からなかったが、話を聞くとピアニストと非常に似ていることに気がついた。永井氏は、「プログラマーもピアニストも鍵盤(キーボード)の前で誰ともしゃべらず、1人黙々と自分の仕事をします。これを続けると本当に人としゃべれなくなります」と言う。
ビジネス・ボイストレーニングで目指すのは、誰もが持っている「声のスイッチ」を使い、それを入れること。「プログラマーの母親がピアノの先生で、そのプログラマーも音楽が好きで、ピアノを習っていたという同じ趣味が声のスイッチを入れた」と永井氏。後日、相談者である社長から、プログラマーが明るくなり、積極的にコミュニケーションできるようになったと感謝されたという。
ボイストレーニングでは、トレーニングの量に比例して少しずつ声が出るようになるわけではない。トレーニングを積み重ねていくうちに、ある日突然、声のスイッチが入り、声が出るようになる」と永井氏は言う。スポーツなどは練習しただけうまくなるというが、声に関しては、その法則が当てはまらない。
声のスイッチを入れるということは、コップに注いだ水があふれ出すようなイメージ。コップの大きさは人それぞれなので、いつあふれ出すかは分からない。
「人は生まれながらに"オギャー"と泣く素晴らしい声を持っていたのに、先のプログラマーのように大人になるにつれ声が出なくなる。それは人生いろいろだから。人は大人になるに連れ、"人前で大きな声を出してはいけません"と教えられる。その繰り返しで、声がどんどん厚着をして出なくなっていく。そこでこの厚着を1枚ずつはがしていくのがボイストレーニングで、このボイストレーニングの基本が"腹式呼吸"である」(永井氏)
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明治学院大学 経済学部准教授