昨今イノベーションは、最も重要な経営課題のひとつとされる。しかし、イノベーションに対する努力や関心は、その多くが新しい商品の開発や技術開発に向けられているようだ。ライバルとは違う次元の競争へのシフトを可能にする、事業構想のイノベーションとは何か。いかにそれを実現するか。
イノベーションという言葉に何かしら接触することが増えていると感じる方は少なくないだろう。実際ある調査によると、イノベーションという単語がメディアで使われる頻度はここ数年大きく高まっているそうだ。しかし、イノベーションという言葉が意味することは使う人や使われる文脈によってかなりバラツキがある。イノベーションの定義に関して細かく詰めていくつもりはないが、この連載を進めていく上で土台となるイノベーションについての捉え方を最初に伝えておきたい。
イノベーションとは「今までとは次元の異なる新しい価値を創造すること」である。技術には限らない。モノ、サービス、ビジネスのアイデアを含む、もっと広い概念である。真のイノベーションは、人々に対して新しい意味やスタイルを提供し、ビジネスや社会の既存のあり方に変化をもたらす。例えば、早くからイノベーションについて深い考察を示してきたドラッカーは、イノベーションの例として割賦販売、コンテナ船、教科書、近代的な病院などをあげている。
分かりやすいケースとして、任天堂のWiiとSONYのプレイステーション3を比較しよう。Wiiはあえて最先端のパワーやパフォーマンスから離れ、モーションコントロール機を加えることでゲームの新しい楽しさや家族でのコミュニケーションといった価値を提案し、従来ゲーム機のユーザーではなかった家族層やシニア層にまで顧客を拡げた。
その一方で、プレイステーション3は、今までと同様ハードコアなゲーマーを対象にグラフィック性能や高性能なパフォーマンスを追求した。両者の目指した方向は対照的だが、結果的に任天堂のWiiは販売量でプレイステーション3を引き離し大きな成功をおさめた。性能としては劣っていてもゲーム機に新しい楽しさやスタイルをもたらした任天堂のWiiは、まさにイノベーションである。しかし、プレイステーション3は従来の延長線上での性能改善であって、イノベーションとはいえない。
イノベーションは、今日のビジネスにとって大変重要な課題である。なぜなら、経済や市場が成熟し似たような選択肢があふれかえる中で、生活者はたいていのことに満足しており、今までとは次元の違う新しい価値や提案が求められているからだ。
この連載では、「事業構想のイノベーション」に焦点を当て、その基本的な枠組みや実践方法について述べていく。筆者は、経営戦略としてのマーケティングや事業戦略のアドバイスを本業とするかたわら、注目すべき戦略イノベーションのケースを集めて独自に分析し、そこで見出した法則を現場での課題解決に生かしてきた。最近では、ビジネスモデルのイノベーションの支援にも注力して取り組んでいる。連載1回目の今回は、「事業構想のイノベーションとは何か」である。
イノベーションといえば、画期的な商品や最先端の技術開発などに焦点が当たりがちである。しかし、いわゆるプロダクト・イノベーションだけが、イノベーションではない。そもそも、優れた商品やサービスを開発するだけでは決め手にならないのが今の時代である。環境変化が激しい現代においては、商品性能や個々のサービスの優位性はすぐに追いつかれてしまう。それでも優れた商品やサービスを開発することは必要だが、それらを越えたレベルでのイノベーションが求められているのだ。
では、真にイノベーションすべきことは何なのか。今最も重要なのは、事業構想(ビジネスコンセプト)のイノベーションである。事業構想のイノベーションとは、これまでとは次元の異なる新しい価値を顧客に提供するために、ターゲットやコンセプト、ビジネスモデルなど、事業戦略の核となる要素や仕組みをイノベーションすることである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授