顧客、競合、技術が激しく変化する中で、ビジネスモデルの寿命が大幅に短くなっている。経営における不確実性のリスクはあらゆる分野で高まっており、どの業界であっても、今日の収益を支えているビジネスの仕組みが5年後も安泰であるかは、もはや誰も確実には予想できない。手遅れになる前に先手を打ってビジネスモデルの変革に取り組むことは、業種業界、企業規模を問わず(たとえ今勝ち組であっても)重要な経営課題といえるだろう。
例えば、世界3大オペラ歌劇場の一つニューヨークメトロポリタン劇場(MET)は、リーマンショック後の影響で経営が厳しくなった。そこで事業立て直しのために音楽業界で辣腕を振るっていたピーター・ゲルブ氏を招聘し、旧態依然の古い枠組みに挑戦し、事業コンセプトやビジネスモデルの革新に取り組んだ。
ブロードウェイのミュージカルの演出方法や、ライブビューイングという高画質な映像を劇場と同時中継で映画館に配信するという新たな視聴モデルなどを導入して(※日本ではライブではなく遅れて上映される)、これまで劇場に足を運ぶことのなかった若者や地理的にニューヨークまで行くことが簡単ではない世界中のオペラファンを取り込み、まだ道半ばながら事業の立て直しに成功している。
伝統と歴史、古くからの固定客、確立されたブランドなどに裏打ちされたこれまでの枠組みにしばられず、大胆な構想で事業モデルの革新を行ったことがMET再生の成功要因である。
事業構想のイノベーションを目指すべき最後の理由としては、商品やサービス単体では難しい、継続的な差別化が可能になるためである。
ユニークな事業構想のもと独自性のあるビジネスモデルを作ることは、単に優れた商品やサービスを開発すること以上に持続力のある差別化を可能にする。いうまでもなく、アップルが強いのは、個々の商品だけでなく、ビジネスモデルの強さによる。アマゾン、ユニクロ、楽天、ZARAといった、いわゆる勝ち組企業の強みの源泉も独自のビジネスモデルにある。
その一方で、ビジネスモデルの強みがハッキリしない企業は、たとえ個々の商品には優れたものがあったとしても価格競争に巻き込まれて利益がなかなか出せず、苦しい状況におかれてしまう。最近では、シャープ、パナソニックやソニーといった企業がこうした課題をかかえて苦しんでいる。このことはベンチャーにもあてはまる。ビジョンや技術優先で事業を開始したものの、ビジネスモデルが十分に考えられていないために、売上が伸びずに事業撤退を余儀なくされるケースが少なくない。
21世紀のビジネスにおいて勝ち組となるためには、優れた商品やサービスに加えて、独自性のあるビジネスモデルも組み合わせることで、他とは次元の異なる価値を顧客に提供することが必須ともいえる。魅力的な商品とユニークなビジネスモデルが組み合わさることで、商品単体のイノベーションだけでは実現できない持続性のある差別化が可能となり、継続的な成果を生むことができるのだ。
事業構想のイノベーションを起こすには、どうすればいいのか。事業構想のイノベーションには、いくつかのトリガーがあり、それらを軸にしてイノベーション戦略を構想することが有効だ。次回からは、この点についてお伝えしていく。
河野龍太
株式会社インサイトリンク代表取締役社長
早稲田大学法学部卒業。英国ウォーリック経営大学院(Warwick Business School)にてMBA 取得。博報堂、博報堂ブランドコンサルティング、ITベンチャー数社の経営参画を経て、マーケティングのイノベーションを支援する株式会社インサイトリンクを設立。博報堂DY ホールディングスにて顧問も務める(2006年〜2008年)。現在ビジネスコーチ株式会社のパートナーコーチも務め、企業のマネジメント層に対してエグゼクティブコーチングも実施している。BCS認定プロフェッショナルビジネスコーチ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授