日本が強い米国を必要としているのと同じく、米国も強い日本を必要としている。これは、日本にとっても千載一遇のチャンスだ。
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2013年に入ってから、安倍政権が掲げる経済・金融政策である「アベノミクス」に対して、メディアだけでなく国民の関心も高まってきております。期待する意見も増えてきているように思われます。
しかし、経済の歴史や本質から見れば、「アベノミクス」の考え方は明らかに間違っています。人は「権威」の前には思考停止に陥ってしまう傾向があります。それは、「経済学」というジャンルにおいても同じです。ですから、自分で物事をしっかりと考えることができない人物が首相になると、「権威」の前に何の疑問も抱かずに迎合し、今回のように間違った政策をゴリ押ししてしまうのです。
日本国民にとって「アベノミクス」は、この上ない不幸を招くことになるかもしれません。やはり、為政者や金融当局者は幅広い見識を持っていることはもちろん、さまざまな視点から自分で物事を考えることができる人がならなければならないのです。
FRBのバーナンキ議長は「米国経済をデフレから救った」と評価されていますが、その認識自体が大きな間違いです。本当の景気回復とは、国民生活が豊かになることであり、株価が上昇することではないからです。
金融危機後の米国民は所得が下がり続けている中で、量的緩和によってもたらされた物価上昇によって生活が年々苦しくなってきています。同様に、金融危機後に通貨安を志向した韓国でも国民は物価高に苦しみ、日本国民よりも悲惨な生活を強いられています。
それらの歴史的な過ちを検証せずに、なぜ安倍首相は米国の量的緩和に習えと、日銀に積極的な金融緩和を強制することができたのでしょうか。たとえ物価を無理矢理に上昇させることができたとしても、企業は従業員の給料を上げることは難しくなっているという歴史の教訓を、なぜ権威ある経済学者たちは学ぶことができていないのでしょうか。
そもそも15年ほど前にポール・クルーグマン教授が提唱した「インフレ目標政策(インフレ期待)」は、ここ10年の資源価格高騰の時代においては成り立っていません。先進国における「景気の拡大=所得の上昇」「企業収益の拡大=所得の上昇」という相関関係は、資源価格の高騰によって断ち切られてしまったのです。
本文では、2000年代に入ってこの政策がまったく機能していないことを検証していますが、経済学者は経済学の狭い塀域に閉じこもって物事を考えるために、こういった間違った理論がいまだに正しいと思っているばかりか、物事の道理や本質が見えなくなってしまっています。クルーグマン教授やバーナンキ議長が間違っていても正しいと評価されているところに、権威の前では反論しない経済学の病理を見出さずにはいられません。
金融緩和論者は、小泉政権下の円安バブルの時に、なぜ国民の所得が上がらなかったのかをしっかりと学ぶ必要があるでしょう。金融危機後の米国や韓国の通貨安政策でも、インフレが国民生活を苦しくし、格差を拡大させるだけだったという歴史の教訓を真摯に学ぶ必要があるでしょう。
日本はデフレであるからこそ、米国や韓国と比べて国民の実質賃金が大きく下がらずに、マシな生活ができているのです。歴史を教訓として学ばない経済学の危うさを、切に感じている昨今です。安倍首相の知恵袋であるエール大学の浜田教授の考えは完全に誤っていると思うのですが、そんな「権威の危うさ」は数年以内に証明されるのではないでしょうか。
わたしはアベノミクスに大いなる懸念を持っていますが、日本経済復活の鍵を握るのは、日本が米国経済の本格的な復活の流れに乗れるか否かにかかっています。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授