アベノミクスは歴史の教訓から何も学んでいないビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2013年05月01日 08時00分 公開
[中原圭介,ITmedia]
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米国経済が繁栄を取り戻す日

 米国ではシェールガス革命が起こり、世界でもっとも安価なエネルギーが米国の企業の競争力を高めようとしているばかりか、世界中の企業を米国に引き付け始める要因ともなっています。シェールガス革命を契機に設備投資や雇用が増加傾向をたどり、米国経済が本当の繁栄を取り戻すのは、そう遠くない将来のこととなるでしょう。

 シェールガス革命は「21世紀最大のイノベーション」です。モノづくりを根本から変えるだけでなく、今の「石油社会」を「ガス社会」に変えるという意味でも、18世紀に英国で起こった産業革命に次ぐ「第2次産業革命」と言っても過言ではないでしょう。

 しかし、シェールガス革命の光の面が「米国経済の復活をもたらす」ということであるならば、闇の面は「世界のエネルギーの戦力図を一変させ、既存の資源国を苦境に追いやる」ということになるでしょう。今は主に米国内の天然ガスや原油の価格下落だけで済んでいますが、米国がシェールガスを本格的に輸出するようになったら、世界中の天然ガスや原油、石炭などのエネルギー価格が大幅に下がり、これまで資源で外貨を稼いできた国々の経済を疲弊させてしまうからです。

 こういった世界経済の二極化が進む中で日本経済が復活するためには、日本は米国と強力なタッグを組むこと、すなわち米国の世界戦略に乗ることしか選択肢はありえません。幸い、米国が自らの世界戦略を達成するためには、日本の協力が必要不可欠となっています。その意味で、「軍事上の安全保障」「エネルギー安全保障」「経済上の安全保障(=TPP)」の3点セットは欠かせないものになります。

 日本が強い米国を必要としているのと同じく、米国も強い日本を必要としています。米国にとっての強い日本とは、「経済が強い日本」を指しているのは言うまでもありません。

 これは、日本にとっても千載一遇のチャンスです。要は、日本国民が真に豊かな生活を送ることができるようになるには、日本の政治が世界の情勢と米国の世界戦略を理解して、当たり前の判断さえできればいいわけです。

 ただし、米国の経済が復活するということは、エネルギー価格の下落によるものであるという事実を無視してはいけません。すなわち、エネルギー価格の下落は食料価格の下落は当然として、あらゆるモノの価格を押し下げる圧力になるからです。つまり、米国はデフレ下の景気回復を達成するということになるのです。実際に、18世紀に産業革命が起こると、モノの供給が過剰になりデフレが西欧社会にまん延していったのですが、人々の生活水準はむしろ飛躍的に上昇していったのです。

 多くの経済学者や政治家が主張するように、「デフレが悪い」という誤った固定観念に捉われてしまっていると理解しがたいと思いますが、われわれの所得が下落する以上に、先に物価が大幅な下落をすれば、人々の生活水準はむしろ上がるはずです。それは、物価が上昇する以上に、われわれの所得が上昇するのと同じ意味合いであると理解することができれば、すんなりと呑み込める考え方ではないでしょうか。

 こんなことを書くと、大いに批判を受けることになるかもしれませんが、それでも正しいと思いますので、本書では誰でも理解ができるように丁寧に解説しています。わたしはかつて、「米国の住宅バブルが崩壊すれば、金融工学はまったく役に立たなくなる」とさまざまなメディアで述べたことがあります。その時は多くの方から「ノーベル賞に裏付けられた金融工学を批判するとは何事か」とお叱りを受けたことがありました。しかし、その後の経緯は皆さんも知っているとおり、実際に役に立たなかったのです。

 権威に対して反論を述べるのは、なかなか勇気がいるものです。反論を述べた後でも、ひょっとしたら自分は間違っているのではないかと、自問自答を繰り返すこともあるくらいです。しかしそれでも、「デフレが悪い」という考えは誤っていると思うのです。インフレと同じように、デフレにも「良いデフレ」と「悪いデフレ」があって、「良いデフレ」が人々の生活水準を向上させることは間違いではないのです。今後10年の米国経済の大きな流れが、そのことを証明してくれるでしょう。

著者プロフィール:中原圭介(なかはら・けいすけ)

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー兼エコノミストとして活動。企業・金融機関への助言・提案や富裕層の資産運用コンサルティングを行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・金融教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や心理学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。主な著書に『これから世界で起こること』(東洋経済新報社)、『経済予測脳で人生が変わる!』(ダイヤモンド社)、『騙されないための世界経済入門』(フォレスト出版)、『お金の神様』(講談社)などがある。


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