「誰よりもうまく仕事をこなしたい!」は言い換えると「部下を打ち負かしてやろう」と考えているのと同じこと。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
わたしはかつて、水産食品に関する技術職の仕事をしていました。しかしある日、上司の思いつきでマグロ船に乗せられてしまったという過去があります。
それは今から11年以上前の6月下旬のことでした。泣く泣く漁船に乗せられたわたしは大分県の港を出て、漁場である赤道付近へと針路をとりました。これはどういうことかと言いますと「台風の発生シーズンに、台風の発生場所に突っ込む」ということを意味し、船にまったく慣れていないわたしにとっては、かなり無謀なことをしていました。
案の定、台風に当たったときは波の高さは6mになり、2階建ての建物が何度も船にぶつかってくるようなものでした。この規模の波になると、船は上下にドンブラコと揺れるという感じではなく、遊園地の魔法のじゅうたんをもっと激しくしたような、回転する乗り物の中にいるようでした。
食事をするときも、食器があちこちに揺れ動くので、みな、皿や茶碗を抱えて食事をとっており、こういう海が荒れている日にはあまり汁気のあるようなものは出てきませんでした。
さらに苦痛だったのは、大波と正面からぶつかるときです。水というものは、静かなときにはとても柔らかいものですが、勢いがあったり、ぶつかる面積が大きいと、非常に固くなります。
なので、大波が船に衝突すると「大型トレーラーがぶつかったのでは?」と思うほど、大きな「ドゴォーン!」という衝突音と激しい衝撃が船内に走り、「船体がまっぷたつに折れ、荒天の海に投げ出されるのではないか?」という不安と恐怖で生きた心地がまったくせず、狭いベッドの端を強く握り、毛布をかぶり、普段はほとんど信じていない、神や仏だけではなく、まだ生きているおばあちゃんにまで、「わたしをお守りください!」と祈っていました。
わたしにとっては生きるか死ぬかの状況であっても、漁師たちは普段と変わらない様子で、パチンコの話や帰港後にどこに遊びに行くか? という話で盛り上がっていました。
そんな漁師のひとりに「こんなに揺れてて酔わないんですか?」と尋ねたら、「ちょっと食欲は落ちるけぇのぉ」と軽く言われ、改めて「漁師ってすごいなぁ」と思いました。しかしそれ以上にすごいと思ったのは、その後に漁師が「でもオレは、船よりも電車のほうが酔う」と言われたことで「ああ、もうこの人たちは自分とは次元が違う」と妙な納得をしてしまいました。
それから数日がたち、嵐のピークが過ぎても、船は海のうねりに翻弄されオフロードの道を進むようにガクンガクンと不規則な方向に傾きます。そんな状況のなか、船長はひとりの若い船員に指示を出します。
船長:「オウ、この電球、あとで替えちょってくれ」
船員:「え〜、オレがやるんか?! 分かったエエど。あとでな」
船長が取り出した電球は非常に大きく、バレーボールの玉くらいの大きさがあったように記憶しています。この電球はどこに付けるものかといいますと、船首部分から、約6メートルの高さにあるポールの途中にあり、操業中の夜間、漁師たちを照らす非常に明るいライトなのです。
足下は濡れて滑りやすく、また不規則に大きく激しく船は揺れているので、ポールから落ちる可能性が高く、落ちたら一瞬で、悪魔の手がうごめいているような不気味なうねりに飲まれ、救出することなどまず不可能です。そんな状況下でも船員は、口では嫌がりながらも、特に反抗することなく「あとで」と言いつつ、すぐに作業に取りかかっていました。
船に乗ったときにはすでに、船長が船員から非常に信頼を集めていることは感覚として分かってはいましたが、命がけの仕事でも逆らわずに指示を受けるのを見て「自分だったら、そこまで上司の命令に、従えるだろうか?」と考えさせられました。後日、船長に対し次のようなことを尋ねてみました。
「船長はみんなからすごく尊敬をされているようですが、それはやっぱり船長自身が、なんでも仕事をうまくこなせるからですか?」
「おいどーは体が太ぇけぇ、素早く動くんは得意じゃねぇのぉ」
わたしは「船長」と呼ばれる人は「体力」「技能」「判断力」など、すべてにおいて一般船員を圧倒しているから周りからの信頼を集めていると予想してそのような質問をぶつけたのですが、アッサリと「素早く動く仕事は苦手だ」と言い放ちました。
以外な答えに目をパチクリしていると、船長は話を続けます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授