「マグロ船ではすごいことができるやつは尊敬されんのぞ」
「ええ! できる人だから「船長」になるんじゃないんですか……」
「自分がデキ過ぎると、普通の人やらの気持ちやらが分ねぇんじゃねぇか。それでつい“何で、こんなこともできよらんのか、このバカ!”ちゅーて怒鳴るけぇ、みんな嫌々働くようになる」
「なるほどですね。 みんなやる気をなくしちゃうんですね」
でも、そうした怒鳴る船長の下では、負けん気のある漁師は「いつか見返してやろう!」と頑張り、いい船になるような感じもしたので、その辺りはどうなのかを尋ねてみました。
「う〜ん。何でもできるよる船長は、若ぇ子たちに“早ぅ、仕事を覚えろ!”と怒鳴るくせに、実際、若ぇ子が巧くなってくると邪魔するけぇのぉ」
「“デキること”をウリに船長になってしまうと、他の人に追い抜かされそうになると必要以上に脅威に感じてしまうんですかね?」
「そげ〜じゃのぉ〜。だからデキる船長の下では、案外いい船になりにきぃ」
しかしそうなると、わたしのなかではまた新たな疑問が生じました。それは、「能力が低い船長に、みんなが尊敬の念を持つのだろうか?」ということと、そもそも「能力の低い人が船長になれるのだろうか?」という疑問です。そんな疑問に対しては、次のように話してくれました。
「船長になるためには、デキるようになることは大事じゃ。 無能じゃ困るけぇのぉ。 でもの、デキるようになること以上に、大事なことがあるんど」
「それって何ですか?」
「うまくできる子がいたら“うめぇのお”と、素直に褒めてやることど」
「それはナゼですか?」
「いっくら、船長に技能があってもの、船員から好かれちょらんと、言うこと聞かんけぇ。船長にとっての大事な能力やらは、“みんなを負かすほど巧くなりよること”じゃのーて“好かれること”だと思うど」
このあと船長から聞いた話では「誰よりもうまく仕事をこなしたい!」と言えば向上心があって聞こえはいいが、それは言い換えると「部下を打ち負かしてやろう」と考えているのと同じで、本来は「仲間」のはずが、気づけば「敵同士」になってしまう危険性があると言っており、このことに気づかないから組織はうまくいかないんだと、大きな目は表情を変えず、淡々と話してくれました。
人間は誰しも自分の存在を認めてもらいたいものです。企業研修のとき、「みなさんは、職場の同僚や上司から、褒めてもらったり、働きを認めてもらうことはよくありますか?」と質問をすると、約9割は、「そのようなことはほとんどないですが、文句ならよく言われている」と回答し、女性ほど「もっと認めてもらいたい」という要望を口にします。
これはつまり、「自分を認めてほしい」という「需要」は大きく「供給」が追いついていない状態なのです。ですから「人の美点を見つけて褒めてあげること」は「人よりも優秀な技能を持つこと」と同じ、もしくはそれ以上の能力になるのです。
ですから、年齢や役職があがるにつれわれわれは「自分の技量を磨き、人に抜きんでること」を頑張るよりも「部下や後輩など、自分よりも優れた部分があれば積極的に褒めてあげる」ほうが、チーム運営には役立つ能力になるのです。
1976年東京都出身。大学を卒業後、バイオ系企業の研究所で勤務。その勤務先では、所長の無理な命令によりスタッフは体調を崩すなどし、業績も雰囲気も低迷していた。ある日、齊藤自身も理不尽な命令で、虚弱体質にも関わらずマグロ船に乗せられることになった。しかし、狭い漁船だからこそ培われた漁師のコミュニケーションのすばらしさに感銘を受ける。この体験をきっかけに退職し研修業を始める。現在は年間200回以上の講演をこなし、日々、全国を飛び回っている。著書多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授