不条理に満ち、欲と力の論理に支配された厳しい現実をクールに分析して開発された理論を使うと、マネジメントの難しさと課題がはっきりする。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
大企業でマネジメントに携わるゼネラリストを対象に「サラリーマンが“やってはいけない”90のリスト」を1月末に出版しました。その多くは、真面目で、論理的にものごとを考え、状況や意思を伝えるコミュニケーション力に優れる優等生であり、ことさらそれらのスキルを教える必要はないと思います。
しかし、優等生としての資質は、マネジメントをするための必要条件ではあっても、十分条件にはほど遠いものです。そこで、そのギャップを埋めるために心がけるべきことを、組織経済学、経営社会学、軍事の指揮統制論などを使って解説しました。いずれも、不条理に満ち、欲と力の論理に支配された厳しい現実をクールに分析して開発された理論であり、それらを使うことで、マネジメントの難しさと課題がはっきりするからです。
そして、次の3つの組織原則を実行する意思と能力を持たなければならないことを最初に強調しました。
・命令一元性の原則:命令は直属の上司から行う。
・権限委譲の原則 :手段方法を決める権限はできるだけ部下に委譲する。
・責任絶対性の原則:部下の管理責任をもち、部下の行動の結果責任を負う。
これらに従うと、命令は次のようになります。「この仕事を君にまかせる。責任はわたしがとるから、いいと思う方法で存分にやってくれ」。そうすれば、命令が無謀なものでない限り、いじけた部下以外は頑張ると思います。またこれが、会社さらには軍隊の伝統的なマネジメントの基本中の基本です。
命令で部下を動かす考えは、部下の自主性を尊重し、また、納得、共感、尊敬、自己実現などの心情的要素の重要性を説くリーダーシップ論、特にY理論のような目標管理論と真っ向から対立する考えです。しかし、会社は顧客ニーズに対応してはじめて存続できるのであり、誰もが嫌うつらく面倒な仕事や失敗のリスクが大きい仕事でも、ビジバシと命じ、テキパキと取り組んでもらわなければならないのです。そのために、会社は、リーダーたちに命令権を与え、社員に給料を払っているのです。
なお、組織原則は、1916年に、フランスの鉱山経営者アンリー・ファヨールが現実に即してまとめたものであり、次の原則も含まれます。専門化の原則(同じ種類の仕事は1人の部下か1つの部門にまとめる)、権限と責任の一致原則(権限を委譲された部下は権限の行使についての責任を負う)、権限と責任の原則(権限が小さいと職務を達成できず、大きいと権限の乱用を生む)、監督範囲の原則(上司が監督できる部下の人数には一定の限界がある)、その他。
組織原則に従えば、会社は、各部門、各社員の仕事の範囲と内容を定め、上から下への命令と規則で部下を動かす、役所同様の官僚制組織となります。その結果、大企業病とも呼ばれる官僚化が派生しますが、わたしは、その症状を次のようにまとめています。
(1)何でも規則病:規則をしゃくし定規に守ることに専念し、臨機応変な対応や規則にないことをやろうとしない(規則への過同調)。※規則には、習慣や前例など守るべきこと全てを含む。
(2)何でも完全病:何事も完全にしょうとして、ささいなことにも大げさに対処し、難しい、失敗の可能性のあることをやらない(完全主義)。
(3)何でも秘密病:悪い情報も良い情報も報告しないで、聞かれたことにだけ答える(秘密主義)。
(4)何でも反対病:現状を変えるあらゆる提案や施策に、表向きは賛成し、実際には骨抜きにする(総論賛成・各論反対)。
(5)セクショナリズム:自分の部門の権力の維持強化を追求する。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授