ビジネスの構想にこだわりすぎて、自分が目指すべきビジネス、やりたいことを実現するのに必要な「人」は誰なのか、という視点を欠いていないだろうか。一人でできることには限りがある。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」のバックナンバーへ。
2008年11月、僕は本当に追い込まれていた。
人生の中でも極めて大きな意思決定であるはずの「転職」。そのマーケットに存在する圧倒的な情報格差を、インターネットの技術を使って解消する便利なサービスを提供することができるはずだ!
そう考えて、その使命を果たすべく「ビズリーチ」という事業を立ち上げた。仲間集めもある程度進んでいたし、できる手はすべて打ったはずだった。だが、プロジェクトは行き詰まり、サイトはバグだらけ、開発スタートから半年以上経つのに、仕様すらブレているありさまだった。
その理由は一つしかなかった。
エンジニアの不在。正確に言えば、ビズリーチにコミットしてくれるエンジニアを仲間にできていなかったことだ。ビズリーチを始めたときから問題だとわかり切っていたことだったが、ずっと解決できないままこじれにこじれてしまっていた。
もちろん、僕だって何もしていなかったわけではない。100人を超えるエンジニアに会い、気持ちを伝え、「一緒にやりましょう」と誘い続けていた。
だがその結果は、散々なものだった。『ともに戦える「仲間」のつくり方』のプロローグにもつづった、実際に僕がエンジニアの方々から告げられた言葉を見れば、一目瞭然だろう。
「南さん、わたしはあなたの仲間にはなれません」
「あなたはただ、自分のしてほしいことを言ってるだけで、実際に手を動かして働く者のことなんて考えてない。結局、人を道具としてか見てないんじゃないですか?」
「南さんの言動には打算が透けてみえるんですよ。仲間になろうと言われても、ただあなたに利用されるだけのような気がしてしまって。それって本当に仲間っていえますか? あなたと一緒に仕事したくないです」
それが仲間といえるのか。その言葉は、僕の心を深くえぐった。
もちろん、信じられる仲間はすでにいたし、信頼して一緒に仕事をしていたつもりだった。だが当時の僕は、まだどこかで「自分がすべてを監督していれば、大きく間違うことはないはずだ」「最後は自分がやればいいや」「一人でもやっていける、一人でなんとかなる」そんなふうに考えていたのだろう。仲間の強みを生かすことはもちろん、自分の事業に必要な力を持つ仲間を巻き込む必要性すらも意識できていなかった。
なにせ、確かな腕を持ったエンジニアを仲間にできないまま、「開発」を外部に投げるという形で事業を走らせてしまっていたのだから。
とはいえ、僕が目指すサービスに、プログラムが書ける「仲間」の存在は不可欠。結局、仲間に対してコミットせず、覚悟を決めきれていなかった僕の中途半端な態度が、会社の成長はおろか、存続さえも脅かしていたのだ。
それでは、なぜ、物事を始めるにあたって、「仲間」が必要なのだろうか。自分一人で社会にとって意義あることを始めたって、まったく問題ないではないか――。
ただ、そう考える前に次のことを自分に問いかけてほしい。
「何でもかんでも、自分一人でやろうとしていないか?」
この問いは、人が何かを始めるときに陥りがちな「思い込み」の存在をあぶり出してくれる。
それは、「何をやるか」、つまりビジネスの構想や成長モデル、想定される顧客の数値や情報などにこだわりすぎて、「誰とやるか」、すなわち自分が目指すべきビジネス、やりたいことを実現するのに必要な能力、またはその能力を持つ「人」は誰なのか、という視点を欠いていることを意味している。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授