IT業界における30年間の経験を生かし日本の次世代リーダーを育成するITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

外資系企業で働き「日本は最高だ」と感じた。日本のことを正しく海外に伝え、海外のことを日本に伝える。次世代リーダーの育成から日本を元気にしたい。

» 2014年02月12日 12時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 2013年12月12日に開催された「第27回 ITmedia エグゼクティブ フォーラム」の基調講演に、元アップル ジャパン代表取締役で、コミュニカの代表取締役である山元賢治氏が登場。「元アップルジャパン社長に学ぶ"世界標準" ──これからの世界を生き抜くための武器とは?」をテーマに講演した。

元気がない日本の若者を何とかしたい

 「30年間、外資系のIT企業で働いて、最も感じることは"日本は最高だ"ということ。現在、地球上に70億人の人間がいるが、日本人のDNAを残したいと思うようになってきた」と山元氏は話す。

コミュニカの山元賢治代表

 コミュニカは、山元氏が50歳になったのを機に独立して創業した会社である。コミュニカという社名の由来を山元氏は、次のように語る。「当初は"コミュニケーション"を社名にしようと思ったが、同名の会社があるので"Communication"から"tion"を外して、Communica(コミュニカ)にした」

 コミュニカのミッションは、講演・研修やコンサルティング、経営塾(CL山元塾)、英語塾(DYE山元塾)などの活動を通じて、日本から世界に情報を発信できる次世代リーダーを育成することだ。山元氏は、「いまの若者を見ていると、世の中の閉塞感を感じているのか元気がない。そこで日本の若者を何とかしたいと思った」と話す。

 「いまの若者は、車も買わない、家も買わない。そのため今後の日本のリーダーや成功者の形は変化してくる。私の知る限り、スティーブ・ジョブズも、ラリー・エリソンも、自分で車を運転していた。運転手付きの車に乗るという官僚が作ったいまの形で、若者の未来があるかといえばたぶん違うと思う」(山元氏)。

 それでは、これからの新しい世界で戦っていく若者たちのリーダーとは、どのような形になるのだろうか。山元氏は、「これまでの経験を生かし、世界を日本に、日本を世界に紹介したい。これにより、次世代リーダーのあるべき姿を日本に伝えたいと思っている」と話している。

東海岸、西海岸でB2B、B2Cを経験

 「私自身はただのコンピュータ屋である。インターネットもなく、コンピュータに関する文献のほとんどは英語で書かれていた時代である」と山元氏。20代のころは、1年に360日くらい会社に行き、システムを構築していたという。

 最初に就職したIBMは、いまでも大好きな会社で、いまの自分があるのはIBMの影響が大きい。社歴の半分は東海岸、半分は西海岸だが、話し方、歩き方、お客様対応、すべて東海岸で教わった、ただ斬新なアイデアを世の中に送り出したいと考えている西海岸の会社も経験できたことは現在の財産になっている」(山元氏)。

 IBMやオラクルなど、B2Bの世界を経験した山元氏は、「B2Bに関してはプロだと思っている」と話す。それではなぜ、180度方向の違うB2Cの会社であるアップルに入社したのか。やはりアップル創業者であるスティーブ・ジョブズ氏の影響は大きいという。

 山元氏は、ジョブズ氏に「ラリー・エリソンと友人なのに、なぜドイツのERPを使うのか?」と訪ねた。ジョブズ氏は「ラリーには100回以上、ERPの改善要求をしたが、ラリーはアクションを起こさなかった。だからドイツのERPを使っている」と答えたという。

 「スティーブはB2Cの神様だが、同じくらいB2Bに関しても見識があることに驚いた。そこでアップルという会社に興味を持った。アップルへの転職の話をした全員に反対されたが入社することを決めた」(山元氏)。

 オラクル時代は、日本で最も高額なコンサルタントと呼ばれたこともある山元氏だが、「入社した2004年当時のアップルは、家電量販店の店員にも"帰れ!"と言われる会社だった」と当時を振り返る。その後、iPhoneで大成功したのは記憶に新しい。

 「思い出に残っているのは"アップルの本当の良さを理解しているのは日本人だけ。私はソニーから学んだが、今度はソニーが私から学ぶ番だ"というスティーブの言葉。アップルでの5年半は、B2Cを経験する良い機会だった」(山元氏)

これまでの経験を日本の若者に伝えたい

 IBMやオラクルでB2Bを、アップルでB2Cを経験した山元氏は、その経験を日本の若者たちに伝えていきたいと考えコミュニカを設立した。山元氏は、「大学で講演していて驚くのは、"なぜ仕事をしなければならないのか?"と聞いてくる若者が非常に多いことだ。そこで"働かざる者食うべからず"をテーマに本を書こうと思っている。編集者には反対されているが……」と笑う。

 また、よく飲み屋で「この仕事はオレの仕事じゃない」とか、「この仕事は社長が決めた仕事だから」といった会話を耳にする。こうした話を聞くと、「日本人の当事者意識のなさに驚く」と山元氏。そこで同氏は、2012年にアジア諸国を回って日本のイメージを調査してきた。その結果を山元氏は、「われわれの先代が話していた"親日派"という言葉は死んでいると思った」と話す。

 アジア諸国の認識は、「他の国に比べて日本がまし」という程度の認識だという。調査の結果は、「仕事は中国の会社に頼む。理由は、日本の駐在員には権限がなく、意思決定が遅いから」。また化粧品や衣類は韓国製、約40チャンネルあるCATVも、5局は韓国の放送、カラオケで歌われる曲も韓国の曲。日本の番組で知っているのは、いまだに「おしん」だけ。山元氏は、「日本人は、日本を海外に正しく伝えていない」と言う。

 「この状況で飲み屋での日本批判を聞いたら、日本に来た外国人は"やはり日本はダメな国だ"と思ってしまう」と山元氏。さらに山元塾で「日本人の当事者意識のなさ」のパターンについて調査したところ「でも」「だから」「社に持ち帰ります」など、キリがないという。「特に"社に持ち帰ります"など、海外ではあり得ない。国際会議でしゃべらないのも日本人だけ」と山元氏は憤る。

 山元氏は、「特に英語の肩書きに「Manager」と書かれている場合には注意が必要だ。日本語であれば、名刺の肩書に"社長"でも、"専務"でも、好きに書けばよい。しかし、英語でManagerといえば、意思決定をする人である。Managerが"社に持ち帰らせてください"と言うことは、海外では言語道断だ」と話す。

 「これではいけないと思いはじめたのがいまの活動の始まり。理由は、日本は最高だから。いまの若者は、生まれたときからよい国なので、まったく理解してないが、こんなよい国はない。日本では、隣の人が銃をもっていることも、ナイフを持っていることもない。財布やパスポートを気にしながら歩くこともない。ベトナムに行くと、新幹線のようなすごい技術をどうやって開発したのかと聞かれる」(山元氏)。

 もちろん悪いこともある。どんな国にも、どんな会社にも、どんな人にも、良いところと悪いところがある。日本は、ほとんどすべての人がいい人である。これはすごいことだ。一方、世界一英語で話しかけると下を向く国というイメージがある。また日本人は会議で発言をしない。会議で意見を言わないことは海外では理解されない。また会議中に寝ている人も多い。では、なぜこうなるのか。

 山元氏は、日本人の品質について「世界中の人が今でも日本製の高い品質の製品やサービスのに期待している。日本人であれば何故それが実現可能なのか説明すべき場面に必ず遭遇する。しかし今の若者は説明できるだろうか。いまの大学では、提案や創案、TQC、シックスシグマ、カンバンなど、何も教えていないことが要因の1つ」と話している。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆