気づきを与える「ほんの一言」で、部下は劇的に変わる。スイッチを入れるための言葉とは。
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部下のことで悩みを抱えるマネージャーやリーダーが増えています――。
など、ほぼすべての上司が、こうした部下をどう動機づけ、いかにマネジメントすればいいのかについて日夜思案しているのです。
指示を出したり命令すればいいのか、要望を示せせばいいのか、感覚に働きかければいいのか、悩みは尽きないのではないでしょうか。その一方で部下のマネジメントに成功した上司たちが口を揃えて言うのは、ちょっと"顔の向きを"変えさせるだけで、劇的に部下は変わるという現実です。例えば、気づきを与える「ほんの一言」で、部下は劇的に変わるというのです。ここからわれわれが学ばない手はありません。
もちろん、マネジメントの原理や原則を押さえることは重要ですし、コーチングやモチベーション理論を学ぶことも大切です。ですが、結局のところ部下と上司との間にあるものを集約すれば、それは「コミュニケーション」です。
どんなにマネジメント論を勉強しても、上司の言葉が部下に伝わらなければ、効果はまったくありません。逆に、「気づきを与える一言」「焚きつける一言」「ハッキリ要望する一言」……が部下にササりさえすれば、部下は行動を劇的に変えて、スイッチが入ったように著しい成長を遂げるものです。
「部下を成長させるために、まず性格から変えていこう」などという、ほとんど実現不可能なことにチャレンジするのでなく、「このくらいならできそうだ」という「ちょっと顔の向きを変えさせる」レベルのことでいいのです。ちょっとした一言で、部下の行動がガラリと変わるかもしれない――ここが、マネジメントの醍醐味ともいえるでしょう。
それでは、そんな部下のスイッチ入れた一言の実例をふたつ紹介しましょう。まずは、負けることを必要以上に恐れる部下への一言です。
「できる前提で話そう」――。これは、あるメーカーのR&D部門でマネージャーを務める山田さんのもはや口癖です。マネージャーとなってみると、負けることや失敗することを必要以上に恐れて、できない理由ばかりを探す部下が多いということに気づきました。何か新しいテーマに挑もうとするたびに、すぐに「こういうことがあるから、これは難しい」とか「こういう点が心配だから、これはできない」とか「こういうリスクがあるから……」と言いだしてしまうのです。この状況を放っておくと、5年先などに時間をかけて問題が出てくるのは明らかだと確信した時から、山田さんは部下に対して「できる前提で話そう」と言うようになったのです。
そもそもR&D部門とは新製品の開発部門ですから、世に新しいモノを問う部門になります。そこでは新しいアイデアが出てきた際に障害が多ければ多いほど、それを克服して製品化した時に売れるものになるのです。斬新な切り口やユニークな開発テーマに対して、「こういうことがあるから、これは難しい」とか「こういうリスクがあるから……」というのは、競合企業にとってもまったく同じことなので、他社が出せないからこそ売れるというものです。
そこを部下に腹落ちさせるのが上司の仕事なのですが、諭しても、説得しても、叱咤してもなかなかうまくはいかないことに気づくでしょう。これはあなたもそうだったかもしれませんが、山田さんもマネージャーになって以来、あらゆる説得方法を試してもうまくいかず、結局行き着いたのが「できる前提で話そう」という課題の与え方でした。
結局のところ、前例のない新しいものにチャレンジするのは、みんな不安で失敗することを恐れてしまい、ついつい保守的になり「できない理由」を探してしまうものです。そんな時に上司としてすべき行動は、山田さんが取ったように課題を明確にすることです。端から「できない理由」などは聞かずに「やるかやらないかは聞いていないので、やる前提で考えてくれ」と言い切ることが肝心です。
こう断言することによって、部下が自分の中で増幅させてしまっている不安を解消させ、できる可能性に意識を傾けさせるのです。「できる可能性スイッチをいれる」といってもいいでしょう。それでも油断すると、すぐにまた廃案にしようとしますから「半分でもいいから実施することに頭を使ったら……」とでも繰り返していかなければなりません。
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明治学院大学 経済学部准教授