「外食産業の社会的地位向上」という理念のもと、永遠に成長し続ける組織を作る気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

会社は社会の公器。全国にチェーン展開をして規模を拡大することで、社会に貢献できる。大きくするために必要な組織のありかた、そして人材とは。

» 2014年04月25日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 29年前に大倉忠司氏が起業した鳥貴族は、現在、日本全国に352店舗(2014年3月現在)を展開する大手焼鳥チェーンへと成長を遂げた。「焼鳥屋で世の中を変えたい」という思いのもと、一人でも多くのお客さまを喜ばせるため、永続する会社を目指している。さらに拡大を続ける大きな成長を支えたのは、大倉氏の思い描く大きな夢、進む方向性を照らし続けるぶれることのない志だった。

ビヤガーデンから始まった飲食業界への道

中土井:飲食業界に入ったきっかけは何だったのですか?

大倉忠司氏

大倉:高校2年生のとき、ビヤガーデンでアルバイトをしていたのがきっかけです。そこで、飲食業の面白さを知りました。みんなでお酒を飲んでいる雰囲気が好きで、お客さんと会話をして接客をするのも楽しかったんです。お酒を飲む楽しい場を提供したいと思うようになり、高校卒業後は調理師専門学校へ進学。その後、ホテルのイタリアンレストランに就職しました。

 そのころ、近所の焼鳥屋によく通っていたのですが、そこの店長が独立するため、右腕として一緒に働かないかと私を誘ってくれました。当時、私はまだ22歳でした。全国にチェーン展開したいという大きな夢に共感し、一緒に焼鳥屋を始めることになりました。

その後、今から29年前、私が25歳のときに鳥貴族を起業することになります。

目先の利益ではなく、一人でも多くのお客さまに喜んでもらうために

中土井:料理人として料理を極めていくことよりも、チェーン展開をして会社を大きくしていくことに集中したのはどうしてですか?

大倉:経営の勉強を始め、ダイエーの創業者である中内功氏のチェーンストア理論に感銘を受けました。価格の決定権を製造メーカーから消費者に取り返すことを信念として、いくらで売ろうとも、製造メーカーには文句を言わせないというものです。私はこれを焼鳥屋で実現したいと思いました。チェーンストア理論の考え方を実践することによって、よりたくさんのお客さまに喜んでもらうことができると考えたのです。

 チェーン店を作るためには、価格破壊によって大きな市場を狙うべきだという考えのもと、焼鳥屋の右腕として働いていた頃から、料理だけですが、均一価格での販売を実現させていました。独立した当時はバブルの好景気の頃だったので、儲けを優先するのなら、高級店を出店した方が利益は上がったと思います。でも、私は目先の儲けよりも、日本中にお店を出して、一人でも多くのお客さまに喜んでもらうことの方が大切だと考えていました。そのため私は多店舗展開を望んだのです。

中土井:チェーンストア理論以外に、日本全国の人たちに喜んでもらいたいという思いを持つようになった理由はありますか?

大倉:外食産業の社会的地位を向上させたいという思いがあります。これは、わが社の理念にもなっています。私が独立した当時、飲食業は水商売だというような言われ方をしていました。そんな中でも、理念に共感して、付いて来てくれた今の役員や社員が大勢います。彼らのためにも、この業界を社会的に認めてもらうため、私たちは全国にチェーン展開をして規模を拡大する必要があるのです。

中土井:これまでの話を聞いていて、環境に適応する柔軟さが大倉さんの強みのように感じました。その柔軟性はどこから生まれるものなのでしょうか。

大倉:昔から目の前にあるもののいいところを見つけていける性格です。飲食の道に入ったのも、高校生時代にたまたまビヤガーデンでアルバイトをしたからです。もし、ビヤガーデンでなかったら、違うものを好きになって、違う道に進んでいたかもしれません。どんな仕事についたとしても、面白さややりがいを見つけることができると思います。好きでやっているので、周りからも認められるようになります。幸せでいるための私の処世術なのかもしれません。

任せることができなければ、多店舗展開は不可能

中土井:組織が大きくなるにしたがって、大倉さんの意識の中で大きく変わったことはありますか?

大倉:任せることができるようになりました。経営者の中には、レジを任せることさえできない人もいます。そういう人には、多店舗経営はできません。

 私は10店舗前後展開したときに、任せることができるようになりました。51パーセントは自分の思い通りに動いてくれたらいい。残りの49パーセントはその人の個性であり、存在価値だと思えるようになったんです。それからは、任せれば任せるほど楽になりました。それまでは、クレーム処理など店舗の全ての業務に自分が関わっていましたから。

店も会社も私の所有物ではなく、社員みんなのもの

中土井:数店舗経営のときと現在では、経営者としての会社や店に対する考え方は変わりましたか?

大倉:3店舗くらいまでは自分の店だという感覚がありましたが、それ以降はみんなのものだという感覚に切り替わりました。みんながいて、店を運営できるからこそ、店舗が増えていくのですから。

 会社を作るときにも、自分の資産ではなく基本的には銀行借入で作っています。いわゆる社会のお金です。それをもとに、みんなで力を合わせて返済しながら、大きくなっていったので、そこから生まれるお金も、増えた店舗も自分のものだという感覚はありません。

 また、起業して1年目に世襲はしないということもコミットしました。私には息子が三人いますが、入社させていませんし妻も社員名簿に載せていません。会社は社会の公器なのです。所有物ではなく、社会からの預かりものなんです。

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