そうした中、2013年にはその先駆けとなる、「携帯電話事業への新規参入選定入札」、「空港運営権などをめぐる国際入札」の大きな2つの入札が実施された。結果は周知のことだが、携帯電話事業については、ノルウェーのテレノールとカタールの国営通信会社カタールテレコムの2社が事業免許を獲得。日本から入札に参加した住友商事・KDDI連合と丸紅・フランステレコム連合は落選となった(丸紅陣営については、決定した2社が辞退した場合の補欠として選定されている)。
同様に、空港の入札についても、日本勢が落札できたのは中部のマンダレー国際空港(総事業費60 億円、事業年数30年)のみで、最大都市ヤンゴン国際空港は、地元資本と中国の企業連合に破れ、新設のハンタワディ国際空港(総工費1,000円億円、総事業費2,000億円)は、韓国勢などの企業連合に敗れた。この2つの入札結果は日本勢にとって全くの予想外の出来事であり、日本国内ではこれまで多大な支援を実施してきたミャンマーへの失望と、今後のポテンシャルに対する疑問の声が渦巻く結果となった。
実際に当時の新聞の論調を見てみると、「選考の詳細は不明だが事業計画や免許料以外に『備考欄』の勝負になったとの見方が広がる。シンガポールテレコムが通信衛星を無償供与すると表明したのは氷山の一角。カタールはエネルギー分野を取引材料にしたとのうわさが飛び交う」(日本経済新聞)、など国間の交渉や取引など、様々な噂・観測が広がった。しかし、改めてこの入札を客観的に眺めてみると、この結果が必ずしも全くもって予想することのできないものではなかったとも言えるのではないか。ここで考慮すべきは大きく3つある。
1、「Best-in-Class」
まず第一に、携帯電話事業に代表される大規模の入札は、これまでASEAN諸国で見られなかった「真にグローバルの戦い」であった。入札に参加した100以上のグループを見てみると、世界に名だたる通信グループがひしめき、「best-in-class」の提案のみが集まる、極めてハイレベルな入札であったことは想像に難くない。入札に勝利した2社をみると、ノルウェーのテレノールはグローバルでもトップレベルの規模を誇る。また、タイやバングラデシュなど新興国で事業を展開した実績を持ち、新興国においても豊富なノウハウを持つといわれている。同様にカタールテレコムも9100万人の利用者を持つ中東の巨大通信会社であり、利用者数で見れば日本のどのグループよりも大きい。
ミャンマーの事業を開始するにあたり、150億ドル(約1兆4700 億円) の巨額投資を行うことを表明しているほか、1万の基地局を設置して、2年で人口の90%をカバーするという大胆なプランを提示しており、提案の中身で日本勢が及ばなかった可能性は少なからずあると考えられる(但し、実際に90%のカバー率を達成しながら事業を収益化できるか、という点については議論が残ることは間違いない。更にこのコミットメントを達成しなかった場合に、ペナルティーがあるのか、ある場合どのようなものになるのか、についても定かではない)。
加えて言えば、提案資料におけるカバー率90%という数字は、一見して不可能だと見なされるレベルではなく(実際の実現性についてはともかく) 採用側の立場に立ってみれば、加点要素になる可能性は十分にある。このあたりは確実にできる(コミットできる) 範囲を提案に盛り込みがちな日本企業との打ち出し方の違いだが、「best-in-class」の提案がひしめく入札においては、一考する余地はあるかもしれない。
2、「Owe to too many countries」
次に、日本が国として行った数々の支援がどう慮られたのか、という点についてだが、これは判断が難しい。但し、携帯電話事業の入札に関して言えば、これだけの企業が集まる入札で最終5社の中に2社の日本勢が残っている(しかも国際的にみれば必ずしもグローバルトップの通信グループというわけではない)という事実は、ある意味配慮されたとも考えられなくもない。しかし、この点を評価する際に留意すべきは、ミャンマーという国があまりにも多くの国に対して「貸し」を作ってしまっているという点にある。
実際、諸外国での携帯電話事業の入札結果に関する記事を見てみると、「タイは欧米諸国が経済封鎖をする中でもミャンマーとの付き合いを続け支援をしてきたが、入札では結果を得られなかった」、「シンガポールはミャンマーが欧米諸国と関係正常化を図る手助けをしてきたというのに、今回の入札ではSingtel が選ばれなかった」など、世界各国で日本と同じような論調の記事が見受けられる。
確かに日本の経済的な支援の額は大きなものだが、先述のとおり、あまりにも多くの国に対して「貸し」を作ってしまっているが故に、一国への「貸し」のみを捉まえて議論をすることは不可能である。加えて、政治的にまだまだ不安定な状況にある中、中国や米国、欧州、中東など、あらゆる国・地域とうまく関係を維持しながら、様々な支援を引き出すことが国にとっての至上命題とも言えるこの国で、日本にだけいい顔をすることは到底できないのである。こうした点も踏まえると、今回の2つの入札結果が必ずしも予測不可能なほど不可解な結果だったとは言えないだろう。
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明治学院大学 経済学部准教授