非営利団体の対ドナー戦略――ブランディング・マーケティングの活用視点(3/4 ページ)

» 2014年10月27日 08時00分 公開
[鬼頭孝幸、中里航平(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

2.マーケティング施策における注意点

 あなたの団体は、「何を」、「どのように」、「いくらで」、ドナーに対して提供しているだろうか。この問いに答えることが、マーケティング施策を立案することに他ならない。(図B参照)

 特に、「何を」ドナーに対して提供するのか、十分に検討できていないケースが多いように見受けられる。ドナーを顧客/お客様として捉えるのならば、資金提供への「お返し」として、何をドナーに対して提供するのか明確にすることは必須である。図Dに示すように、これには大きく2 つの方向性が存在する。

ドナーへの提供価値の方向性

 1つは、資金提供をうけるかわりに、自分のお金が有意義に使われ、課題解決につながっているという「満足感」を提供するという方向性である。比較的歴史が長い、老舗NGOに特に多い。この場合、ドナーに対して、自分のお金が有意義に使われている「証拠」と、それを実感できる機会を提供することが必要だ。

 上記は当たり前のことのようにも思えてしまうが、どのような「満足感」を提供するのかまで、意識的かつ十分に検討できているケースは少ないのではないだろうか。「満足感」にも様々あることに注意しなくてはならない。例えば、自分の子どもと同じような年齢の子どもが発展途上国において様々な問題を抱えていることに心を痛める母親と、途上国開発に関して専門知識を持ち既存の援助の仕組みに問題意識を感じている若者とでは、資金提供に足る「満足感」は大きく異なっている。団体の活動内容、そして価値イメージを前提に、どのような満足感を、どのようなドナーに与えるのか、検討する必要がある。

 一方で、満足感ではなく、目に見えるより具体的な価値をドナーに提供している団体も存在する。例えば、マラソン大会やトレッキングなどを企画し、参加者に運動やネットワーキングの機会を提供し、対価として資金を頂く。その資金を、団体の支援活動に活用する、といったケースである。

 最近では特に、数多くの団体がこうした取り組みを行ったり、計画したりする姿がみられるが、団体のブランド(価値イメージ)と整合した取り組みにすべきと私たちは考えている。例えば、ある団体は「気軽に取り組める開発援助」というイメージを訴求しながら、マラソン大会を主催し資金調達を行っている。団体のコンセプトやイメージと整合性のとれた価値をドナーに対して提供していることが、活動の成功の1 つの主要因ではないかと思われる。

 次に、「満足感」や「提供価値」をどのように伝えるか、活動を設計していく。これも、ここまで論じてきた団体のブランド(価値イメージ) やドナーに対する提供価値と整合性がとれた活動としていくことが重要である。

 例えば、特定の領域における専門性を団体のブランドとして追求するためには、マスコミュニケーションを行うよりは、小規模なイベント等で丹念に団体の活動内容やその専門性を説明することが有効と考えられる。パンフレットやウェブサイトも、「いかに他団体とは異なり、専門的・独自の活動を行っているのか」を丁寧に既述する必要がある。

 一方で、CMや電車広告によるマスプロモーションが適する団体、スタディーツアー等で支援の現場にドナーを連れて行くことが効果的な団体、非常にフランクなドナー向けパーティーをすることが適している団体など、様々である。すべて、どのようなイメージをドナーに抱いてほしいのか、どのような価値を提供したいのか、という問いへの答えと整合性がとれていなくてはならない。

 「いくらで」とは、もちろん、どの程度の資金提供を各ドナーから頂くかという問題である。自団体のブランドや提供価値が対象とするドナーとその支払い能力を想像しながら、現実的な金額を設定しなくてはならない。ここでは、自団体と比較的似ている団体をベンチマークすることが特に有効である。また、クラウドファンディングの広がりに見られるように、資金を頂く方法も多様化しており、慎重な検討が必要だ。

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