日本の、そして世界の鉄鋼業界のリーディングカンパニーである新日鐵住金が、本腰を入れて海外展開を図り始めた。日本流でここまでの成長を成し遂げてきた新日鉄住金は、グローバルカンパニーへと進化できるであろうか?
鉄鋼業界のリーディングカンパニーである新日鐵住金が、グローバル展開を加速している。2012年に旧新日本製鐵と旧住友金属工業の経営統合によって誕生した同社の2014年3月期売上高は5兆5千億円を超え、国内売上高2位のJFEホールディングスの3兆6千億円に大きく水を開けている。海外事業売上高は2兆2千億円と約4割を占め(注1)、海外生産拠点は46拠点に達した(注2)。また、主要な海外製造拠点の年間生産能力は2013年3月末の約900万トンから2014年3月末には1900万トンにまで拡大し、近年は米国でのシェールガス需要の高まりに応じてシームレスパイプ(継ぎ目のない鋼管)の出荷量も大幅に増加するという追い風も吹いており、新日鐵住金は数値上から見ると紛れもなくグローバル企業と言える。
しかしながら、同社が「真の」グローバル企業に進化できるか否かは、ここ数年の取り組みの成否にかかっていると筆者は考えている。それは、新日鐵住金の中核となっている旧新日鐵が、海外でビジネスは行っていたものの、実質的にはドメスティックカンパニーであったとみなすことができると考えているからである。これは、同社固有の問題というよりは、鉄鋼業界の特性によるところが大きいと思われる。
「鉄は国家なり」という言葉が象徴するように、鉄鋼業界は長らく各国の国策企業同士が友好的な協調関係を作って相互支援を行って来た歴史がある。その象徴の一つが、国際鉄鋼協会(IISI)が開催するアニュアルミーティングであり、そこでは世界の有力鉄鋼メーカーのトップが夫婦で集い、互いの友好関係を深める活動が行われてきた。このような親密な関係に基づき、新日鐵はインフラ需要の減少によって経営難に陥った海外企業へは資本面で、新興国で生まれた新たな企業には技術面で、各国の政策と整合を取りながら支援を行ってきたのである。こうした支援中心の海外展開は、旧新日鐵の「海外事業」を「(現地企業に運営を任せる)合弁会社の設立」と同義語とし、その結果として同社は「海外で事業を創る経験を持つグローバル人材」を社内に育成することができなかった。
しかしながら、ここ数年で国内外の市場および鉄鋼業界のプレーヤーが変化し、新日鐵住金もいよいよ重い腰を上げグローバル企業への変革に向け歩み始めざるを得なくなったようだ。タイトルで少々刺激的に「恐竜」と例えたのだが、それはこのような理由による。新日鐵住金は、今まさに歴史的経緯を乗り越え、「真の」グローバル企業への変身を迫られているのである。以下、同社が置かれている環境の変化と近年の取り組みを概観し、新日鐵住金の今後の展望について考えてみたい。
鉄鋼業界のグローバルレベルでの協調的な業界環境を一変させたのは、2006年のミッタル・スチールによるアルセロール社の敵対的買収である。ミッタル・スチールは1976年にインドで設立され、1980年代終盤からグローバルレベルで買収を繰り返して短期間で世界有数の鉄鋼メーカーに成長した。但し、当時のミッタル・スチールは建材向けなどの低価格製品が主力であり、特殊鋼などの高品質な鋼材を主力とする新日鐵にとっての脅威は低いと考えられていた。そこでミッタル・スチールは、自動車向けなどの特殊鋼に強みを持つフランスのアルセロールを傘下に収めることを狙って、敵対的買収を仕掛けたのである。
アルセロールの買収に際しては、両社の戦略があまりにも異なることを理由にアルセロールの経営陣や株主、およびフランス政府までもが当初は強硬に反対したが、ミッタル・スチールはその強い抵抗を押し切ってアルセロール社を買収した。その結果誕生したアルセロール・ミッタルは、規模だけでなく特殊鋼と汎用鋼の双方の技術を持つグローバルトップ企業に上り詰め、当時の新日鐵にとってはそれが大きな脅威となった。
新日鐵は、このような動きに対して敵対的買収に対する防衛策を採ると同時に、アルセロール・ミッタルに対抗し得る力を持つために、ようやく社内で真剣にグローバル対応の必要性を議論し始めたようである。(但し、ミッタル・スチールにとっては、新日鐵はあくまでローカルプレイヤーに過ぎず、日本固有の独特な文化を持つ同社を買収候補とみなしていなかったのが実態のようだ。)(注3)
新日鐵にグローバル化を促しているもうひとつの大きな要因が、市場の変化、特に新興国の経済成長と新日鐵にとって最も重要な顧客である自動車業界のプレーヤーの変化である。中国、東南アジア、インドなどでは、さまざまなインフラ整備のために鉄鋼需要が増大した。その結果、現地で数多くの鉄鋼メーカーが生まれ、グローバルの業界地図を一変させた。(表1参照)
新興の現地メーカーは、設立時から現在まで汎用鋼の生産を主としている企業が多く、その意味においては、特殊鋼など品質面で圧倒的な差をつけている新日鐵にとって、大きな脅威にはならなかった。中国をはじめとするアジア市場で需要が大きい建材用などの鋼材には、自動車の部品に使用される鋼材のような高度の技術が必要とされないためである。
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明治学院大学 経済学部准教授