価格や性能だけの差別化は過去――問題解決型コミュニティで消費者の心をつかむ(1/2 ページ)

作り手である企業がどれだけ価格や性能の優位性をアピールしても、本当の価値は消費者が知っている。それでは消費者の本音をいかに聞き出し、製品に反映して、新たな価値を創出すればよいのか。

» 2015年03月09日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 「エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム」のSIG(Special Interest Group)開催にあたり、早稲田大学 ビジネススクール教授、ディレクター IT戦略研究所 所長であり、エグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム代表幹事の根来龍之氏が「ソーシャルメディアとECの統合化」をテーマに講演した。

顧客経験の創出が差別化のカギ

早稲田大学 ビジネススクール教授、ディレクター IT戦略研究所 所長 根来龍之氏

 カスタマーエクスペリエンス(顧客経験)の定義をバーンド・H・シュミットは、著書の中で次のように述べている。「顧客は商品を購入するだけでなく、商品を購入する経験を得ている。つまり、安く買えるという経験、新しい商品を知るという経験だけでなく、顧客が体験するさまざまな経験を価値とする」

 「ECサイトの場合、価格や性能だけが差別化ポイントではなく、アクセシビリティ、ユーザービリティ、検索機能、リコメンデーション、カスタマーレビューなどの点でいかに顧客経験を創出するかが差別化となる」(根来氏)

 ECサイトにおける顧客経験の価値創造に成功しているのが、2440ブランドのアイテムを公式に取扱うファッション通販サイトである「ZOZOTOWN」である。ZOZOTOWNを運営するスタート・トゥデイは、1995年にCD・レコードの通信販売業として創業し、2004年にこのサービスを開始している。

 ZOZOTOWNの成功要因は、出店ブランドに制限をかけることでブランドの価値を維持していること、ソーシャルメディアの活用によりステータスを向上していることの2つである。これにより顧客に、ZOZOTOWNで買い物をすることの楽しみを感じるという価値を提供することがほかのECモールとは違う点である。

 顧客経験は、大きな差別化要因ではあるが、不断の改善、見直しが必要になる。それでは、いかに変化させていけばよいのか。

 Amazon.comの創設者であるジェフ・ベゾス氏の成長モデルは、品揃えを増やす、顧客満足度が高まる、訪問者数が増える、売り手の数の増加につながるという一連のサイクル。これを繰り返すことで、価値競争が起き、低価格が実現し、顧客満足度がさらに上がるという。

 根来氏は、「今後、ECサイトにおいてはモバイル対応、個人ECへの対応を前提としたカスタマーエクスペリエンスの再デザインが求められる」と話している。

新しいマーケティングの時代の訪れ

オウケイウェイヴ 取締役CMO エンタープライズソリューション事業部 事業部長兼マーケティング本部 本部長兼OKWave総合研究所 所長の佐藤哲也氏

 根来氏に続き、オウケイウェイヴ 取締役CMO エンタープライズソリューション事業部 事業部長兼マーケティング本部 本部長兼OKWave総合研究所 所長である佐藤哲也氏が登場。「顧客接点における"エクスペリエンス"の進化」をテーマに、マーケティング3.0時代における問題解決型コミュニティの重要性を紹介した。

 OKWaveは、企業向けのビジネスとして、企業サイトの「よくある質問」というページをASPモデルで提供している。また、だれでも自由に質問したり、質問に答えたりできる「Q&Aサイト」を運営している。さらに、2013年にOKWave総合研究所を設立し、これまで蓄積してきたQ&Aデータを分析するビッグデータ解析をビジネスとして展開している。

 佐藤氏は、「Q&Aサイトの成り立ちは、だれもが持つ助け合いの心である。人と人の心をつなぎ、世界をつなぐ貢献を目指している。現在、これまでのマーケティング時代とは違う、新しいマーケティングの時代が訪れており、消費者と価値を共有し、より良い社会に発展させていくコミュニケーションデザインが必要になっている」と話す。

問題解決型コミュニティの重要性

 近年、企業が自社の商品の値段や品質による差別化だけでなく、消費者を取り込んだ価値提供による顧客満足度の向上が求められている。これを実現するのが、「マーケティング3.0」と呼ばれる新たなコミュニケーションデザインである。このマーケティング3.0は、ストック性、精神性、代行で構成される。

 ストック性とは、いわゆるテレビCMによるマスコミュニケーションではなく、消費者が参加して価値を蓄積していくものである。また消費者自身が商品を使うことで、そのブランドとの一体感を感じることが精神性である。代行は、企業が商品をアピールするのではなく、消費者にアピールしてもらうことを意味する。

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