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» 2015年03月17日 08時00分 公開

現場力強化が新興国ビジネスの10年後を決める〜インドネシアを例に飛躍(2/3 ページ)

[諏訪 雄栄(ローランド・ベルガー),ITmedia]

 3つ目の変化としては、これは特に地場のコングロマリット企業に顕著なのだが、「事業の多角化」が挙げられる。例えば、インドネシア最大の企業グループであるAstra Internationalの中核事業は自動車だが、グループ内で銀行

業やパーム油製造業なども手がけている。2013年には、英国最大の保険会社であるAviva との合弁で生命保険事業への参入を決めた。

 また、同じく10大グループの1つであるLippoグループは、不動産開発、小売、医療、メディア、金融、果ては通信や教育と、ありとあらゆる事業を手がけており、いまだ事業領域を拡大中だ。強い事業基盤とコネクションを持つ地場のコングロマリット企業は、あらゆる外資系企業から引く手あまたの状態にあり、ますますの多角化も想定される。

 こうした中で、グループの経営陣は、各事業の性質に沿って体系立てたKPI を持たなければ、「とてもではないが全ての事業を見切れない」し、「生産性を上げなければ各事業のポテンシャルを刈り取れない」という悩みを抱えるに至っている。

 高成長で利益が右肩上がりの時代は、国レベルでは生産性の問題が浮上したとても、企業レベルではそれに目をむける必要はそれほどなかった。しかし、「成長速度の鈍化」「競争環境の激化」「高まる事業の複雑性」といった変化に直面するなかで、多くの企業が急激に収益構造の改善を意識せざるを得なくなり、結果的に「労働生産性の改善」「現場力強化」を課題認識のトップに浮かび上がった、というのが筆者の印象である。

現場力強化への躊躇

 以上見てきたとおり、インドネシアで活動する企業において、「生産性向上・現場力強化」の必要性はこれまでにないほど高まっている。しかし、現地経営者が同時に口を揃えるのは、「この国で実行するのは簡単ではない」という悩みだ。実際、多くの企業において「生産性向上・現場力強化」はいまだ手つかずの状態だ。なぜだろうか。

 1つには、インドネシアでは体系だった情報やノウハウの蓄積がいまだ乏しく、どのくらいの生産性が「業界平均」または「業界トップクラス」で、それを実現するには、どのような「手法」や「ベストプラクティス」があるのか、ということについて共通言語がない、という点が挙げられる。ある日系製薬メーカーの本社は、インドネシア法人の営業生産性向上に取り組むべきかどうか悩んでいた。というのも、インドネシア法人からの報告では、医薬品営業はいまだ「御用聞き」的要素が強く、生産性向上に取り組む必要はない(とにかく訪問していればよい)、というものだったからだ。

 本社は「それは全近代的ではないか」とも思うのだが、現地での営業実態が把握しづらい以上、それ以上の口出しがしづらい。「戦略立てた営業活動をやっているメーカーもあるのではないか」と思いながらも、それを把握する手段がない。別の外資系製薬メーカーのインドネシア法人の営業責任者は、地方都市における営業活動がどの程度効率的に行われているのか、営業スタッフ間でベストプラクティスを共有すれば生産性の底上げに繋がるのではないか、という課題認識を持ちながらも、各営業担当者の「地方によって状況は違うので同じものさしでは計れない」という言葉を鵜呑みにするほかなかった、と言う。

 また、仮に問題意識を持ったとしても、実際にそれをどう進めていいのか、どのような分析をして問題を抽出し、どのようなアクションを取っていくべきなのか、について、これまで学ぶ機会がなかった、という点も挙げられる。ある現地大手のメディア企業は、従来のメディア事業だけでなくeコマースやTVショッピングなど事業の多角化を進めているが、そもそもeコマースやTVショッピングにおける事業のKPIが何なのかもわからないし、各KPI を改善するための一般的手法、さらにはグローバルでの最先端手法としてどのようなものがあるのかも学んだことがない、と言う。

 例えば、TVショッピングからeコマースへの誘導などをどのように作りこんでモニタリングしていけばよいのか、などを議論したくても、少なくともインドネシア国内では誰も建設的なやりかたを知らない、と頭を悩ませていた。これまでは「とにかく現場を鼓舞する」というやりかたで少しずつ改善をしてきたが、もはやそれでは限界に来ている、と感じていると言う。

 最後に、どの企業も最大の悩みとして挙げるのが、「現場にプレッシャーをかけるとすぐに辞めてしまう」という問題だ。市場拡大が続くインドネシアでは、極めて激しい人材の引き抜き合戦が行われている。それも、同業種間だけでなく、異業種を含めての争奪戦だ。「企業に対するロイヤルティ」という意識があまり醸成されておらず、また、「個人のキャリアディベロップメント」という観点でもスタンダードがないインドネシアでは、業種や職種が違えど好条件であれば転職する、という考え方が一般的だ。こうした環境下で社員に対して「生産性を上げよ」とプレッシャーをかけると、会社に不満を抱え、他企業からの甘い言葉と破格の好条件に容易につられてしまう、なので、「生産性は上げたいが、辞められると困るので手が出せない」というのが、現場力強化に舵を切れない最大の悩みである。

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