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» 2015年03月17日 08時00分 公開

現場力強化が新興国ビジネスの10年後を決める〜インドネシアを例に飛躍(3/3 ページ)

[諏訪 雄栄(ローランド・ベルガー),ITmedia]
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インドネシアにおける「現場力強化」の実際

 「生産性向上」「現場力強化」は待ったなし、でもどうにも手がつけられない、というのが多くの企業に共通する悩みである。ローランド・ベルガーは、こうしたクライアント企業と現場力強化に向けたプロジェクトチームを組成し、生産性向上の具体的な数値目標を掲げ、クライアント企業に常駐しながら二人三脚で数多くの成功を収めてきた。こうしたプロジェクトに携わってきた筆者の実感は、「たしかにインドネシアならではの難しさもあるが、これまで取り組んでこなかったぶん、改善のポテンシャルは極めて大きい」というものだ。以下、いくつかの実例を挙げることで、インドネシアの現状がどのようなものなのか、どのように進めれば生産性向上が達成できるか、具体的な肌感覚をお伝えしたい。

ステップ1: 基本動作の徹底

 ある現地オフィス用品サプライヤーは、中小企業向け営業チームの生産性改善に悩んでいた。いわく、彼らの主力商品の営業スタッフ1人あたりの販売台数が1日当たり0.2台、すなわち週に1台、という状況だ。それが競合と比べて勝っているのか劣っているのかもわからない、どうやって改善すればよいかもわからない、というのがプロジェクト当初である。実際我々が現場に現状把握に行くと、営業スタッフのほぼ全員が外回りに出かけず、一日の大半をオフィスで過ごしていた。我々が最初に行ったことは極めてシンプルで、朝出社してきた営業スタッフに「外回りに出かけましょう」と言うことだ。初めのうちは何かにつけ言い訳をしたりするが、数ヶ月すればオフィスにいる人間はほぼいなくなる。これだけのことで、営業スタッフ1人あたりの販売台数は5倍に増えた。

 ある公共交通機関では、社内の広告スペースの売上増加に悩んでいた。分析をしてみると、営業担当者が受注した広告スペースの契約内容をフォローしていないため、3ヶ月の契約期間の広告スペースに期間満了後も掲載し続け、そ

の後半年に亘り無料で広告スペースを提供している、というようなケースが多数見つかった。ここでも、各営業担当者が契約内容を確認し、期間満了が近くなるとクライアント企業に連絡し、継続受注を取る、という基本動作を徹底することから始めた。1年後、広告収入は3倍に達していた。

 上記2つの事例は、中でもわかりやすいものを取り出しているが、現状のレベル感が少しは伝わったのではないだろうか。ようは、基本動作が徹底されていないのだ。インドネシアでは、多くの企業において、明文化された業務フローがあるわけではない。また、前述のとおり、人の入れ替わりも激しいため、個々人のノウハウの蓄積も乏しい。これまで手をつけていなかった、ということもあり、「基本動作レベルで改善できるポテンシャルが極めて大きい」というのが筆者の実感である。

ステップ2:「市場平均」のベンチマーク

 ある自動車メーカーは、現地調達部品の1 つを古くからつきあいのあるローカルサプライヤーに発注していた。インフレや人件費の高騰、為替変動によって年々価格は上がるものの、これまではそれほど意識せずにつきあいを続けていた。昨今、顧客からの価格圧力が厳しくなったこと、また、サプライヤーの新規参入が相次ぎ、調達先候補も増えていることから、この機会に価格ベンチマークを行うことにした。結果、既存取引先のローカルサプライヤーは、新規参入したグローバルレベルのサプライヤーよりなんと40%も割高であることが判明した。

 先進国ではまず見られないようなケースだが、「市場価格」の定まっていない新興国ではこうした話は決して珍しくない。前述のとおり、何が「市場平均」なのか、誰もわかっていないからだ。また、成長著しく、新規参入がさかんな新興国では、1年前の「市場平均」と今日の「市場平均」が大きく違う、ということも日常茶飯事だ。基本動作の次にやるべきは、「市場平均」、すなわち、目指すべき基準値を把握することである。営業スタッフは1日何件回れるものなのか、靴1足はどのくらいの時間で作るべきなのか、どの業務においても経営者、社員双方が納得できる「客観的な」基準値を設定することが2つめのステップだ。

 ここで重要なのは、決して「日本では……」「タイでは……」という比較ではなく、あくまでインドネシアでの基準値を設定する、ということである。でなければ、「渋滞の多いジャカルタでは1日3件顧客を訪問できればいいほうだ」「ルピア安と人件費の高騰、インフレを考えるとこれでも赤字覚悟の価格だ」という主張が繰り返されるばかりか、現場にとっても説得力のない基準値になってしまう。まずはインドネシアでは何が平均的なのか、現地現物で確認し、組織で共有することが肝腎だ。

ステップ3: 実行と定着(標準化)

図D:新興国での現場力強化の進め方

 「基本動作」が徹底され、「市場平均」とのギャップと原因が分析できれば、あとは実行と継続的改善あるのみである。インドネシアでは、こうした改善活動に慣れていない企業が多く、また、過度なプレッシャーは前述のとおりご法度になる。1年、場合によっては数年の時間をかけて、少しずつ組織に定着させていくことが必要だ。ローランド・ベルガーでは、1年目が「(生産性がこんなにも改善するものだという)発見」、2年目が「(クライアントメンバーへの) 実行リーダーシップの委譲」、3年目で「定着・標準化」というステップで支援をしたことがある。成果を一時的なものではなく、組織の文化に昇華させるには、そのくらい腰を据えて進めることが肝要だ。

 また、こうしたプロジェクトをクライアントと進めていくと、プロジェクトチームに参画しているクライアントメンバーの中に、生産性向上のインパクトを痛感し、高い意識でノウハウの取得に取り組もうとするメンバーが現れる。インドネシアも日本同様に、年長者を尊び、年長者から高いポジションに上がる、という文化が根強いが、こうした意識の高いメンバーを「核人材」として早くから登用することも組織への定着を助けてくれる。(図D参照)

おわりに――外部コンサルタントの役割

 以上見てきたような話は、決してインドネシアに限った話ではなく、新興国ではある程度共通の課題のように見受けられる。こうした現場力強化における外部コンサルタントの役割について最後に紹介しておきたい。

 言うまでもなく、今回紹介したような、「現状(基本動作の徹底度) の見える化」や、「市場平均の把握」といった調査・分析はコンサルタントの得意とするところだ。また、実行段階において強くクライアントメンバーをリードしたり、確立された手法を持ち込むことで、成功体験を掴み取る力もコンサルタントが発揮できる付加価値の1つだ。しかし、こと新興国においては、外部コンサルタントを起用することが社内の軋轢の緩衝材になることも紹介しておきたい。前述のとおり、多くの経営者は現場力強化への取り組みがスタッフの離職を招き、結果的に現場力が弱体化することを恐れている。

 こうした中で、あえて外部のコンサルタントを「悪者」にする、あるいは、「期間限定」という印象を持たせることで、経営者と社員の直接的な軋轢を和らげることができる。御社でも、ぜひ一度「現場力診断」をしてみてはいかがだろうか。

著者プロフィール

諏訪 雄栄(Suwa Yoshihiro)

ローランド・ベルガー インドネシアジャパンデスク シニア プロジェクト マネージャー

京都大学法学部卒業後、ローランド・ベルガーに参画。日本および欧州においてコンサルティングに従事。その後、ノバルティスファーマを経て、復職。製薬、医療機器、消費財を中心に幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略(特に新興国)のプロジェクト経験を多数有する。


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