途上国に必要なのは寄付ではなく「もの作り」――バングラデシュから始まったマザーハウスの挑戦ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

途上国を発展させるのは寄付だけではない。マザーハウスはもの作りにより、途上国から世界に通用するブランドづくりを目指している。

» 2015年04月08日 08時00分 公開
[山下竜大ITmedia]

 「ITmediaエグゼクティブ勉強会」に、マザーハウス 取締役 副社長 山崎大祐氏が登場。「ただ単に"モノを売る"時代は終わった――途上国、顧客を巻き込んだ理念経営で成長するマザーハウスに学ぶ」と題して、バングラデシュやネパールにおけるマザーハウスのもの作りについて紹介した。

途上国から世界に通用するブランドをつくる

マザーハウス 取締役 副社長 山崎大祐氏

 「マザーハウスは、バッグを作って、バッグを販売する会社である。少し変わっているのは、3月9日(サンキューの日)に"お客様総会"を開催することだ」と山崎氏。「株主総会」はよく耳にするが、お客様総会とは何か。株主総会は会社が株主に経営の報告をする会であり、お客様総会は会社がお客様に経営の報告をする会である。

 お客様総会は、マザーハウスの商品を持っていれば定員の許す限り誰でも参加できる。代表の山口絵理子氏を含む3人の代表者が前年の報告と本年の方針を発表し、お客様との質疑応答を行う。山崎氏は、「お客様総会は、会社のビジョンをお客様と共有し、お客様とともに商品開発を行うというマザーハウスという会社を端的に表している」と話す。

 「"途上国から世界に通用するブランドをつくる。"という企業理念を実現するためのツールがビジネスである。"途上国=まずしい"とか、"途上国=かわいそう"というイメージがあるかもしれないが、途上国にも優れた人材、すばらしい素材がある。こうした人材や素材の可能性に光を当てて、もの作りをするのがマザーハウスだ」(山崎氏)。

 現在、アジア地域でもっとも貧しい国の1つと言われているバングラデシュに150人規模のカバン工場を、またネパールに数人規模のストール工場を持っている。店舗は日本に15店舗、台湾に5店舗の合計20店舗を展開。日本の本店は約60坪の広さで、本店を含む多くの店舗の内装は自分たち社員で行っている。

ナンバーワンの労働環境を目指す

 バングラデシュは、インドの北東部にある人口約1億5000万人、北海道の2倍程度の国土を持つ非常に人口密度の高い国である。ストライキや洪水など、ネガティブなイメージがあるが、アジアの中でも成長著しい国のひとつである。2004年ごろは街にはストリートチルドレンが集まっていたが、現在では経済状況もかなり良くなっている。

 「バングラデシュでは、2006年よりジュートと呼ばれる麻素材を使ってもの作りを開始した。素材の開発から製品の製造に至るまで、すべてを行っている。現在バングラデシュのレザーバッグ工場としては規模は5番手前後だが、ナンバーワンの労働環境を目指している」(山崎氏)。

小学校時代の「いじめ」が創業の原点

 代表の山口氏は、年間の半分程度をバングラデシュで過ごしているという。山崎氏は、「ネパール語も、ベンガル語も話せて、現地の職人と一緒にもの作りをしている。カバンの飾りに民族衣装の生地であるサリーを巻いたり、グラデーションのレザーをなど、現地でしかできない素材を使った開発を行っている」と話す。

 山口氏には、マザーハウス創業への強い思いがあったという。小学校でいじめにあい、6年間ほとんど不登校だった。中学ではその反動で非行に走るが、中学2年のときに柔道に出会いのめり込む。高校時代も柔道に打ち込み、最終的にはジュニアオリンピックで7位になり、日本代表合宿にも参加している。

 しかし日本で1番になれなければ、その先の世界への道もない中で未来はないと考え、柔道を始めた原点である「いじめ」をなくすために教育事業に進むことを決め、慶應義塾大学総合政策学部に入学。世界にはさまざまな事情で学校に行けない子どもたちが数多くいることを知る。

 山口氏は、2002年に当時アジア最貧国であったバングラデシュに旅立ち、2週間の滞在で感化された。バングラデシュの大学の大学院に入学。当初は寄付による貢献を考えていたが、やはり違和感があり、違う道を探していたときにバングラデシュが誇る素材であるジュートのコーヒー袋を見つける。これでおしゃれなバッグが作れないかと考えた。

 日本に帰り、バイトで稼いだ資金を持って再びバングラデシュに向う。ジュートでバッグを作ってくれる工場を見つけ、160個のバッグを作り日本に持ち帰った。このとき「マザーハウス」というブランド名でバッグを作ったが、マザーハウスという会社はまだ設立されていなかった。

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