ただ、この流れるように次々ともたらされるデジタルに関するトレンド情報や競合の動きに下手に表層だけ反応してしまうとそれこそデジタルの渦に飲み込まれてしまう。
これらの情報は経営者のアンテナを刺激しアイデアを湧き上がらせる。それをデジタル担当者へ課題出し、担当者は頭をひねらし、数カ月後に回答を持ってくる。その時、経営者は既に次のアイデアが浮かんでいる。そこにあるのは確固とした軸の喪失だ。そして特にデジタルでの売上高に目的を置きにくいメーカーはゴールが自社サイトへの訪問者数になり、手段がだんだんと目的化していってしまう。
現在、既にメーカーのオウンドメディアの訪問者数は相当のメディア価値を持つレベルにまで高められている。(図B参照)しかしその訪問者数をどのように自社にとっての価値に転換していくかについてはまだクリアになっていない企業が多いのではないだろうか。
目的は大きく「(1)ダイレクトチャネルによる売上の獲得」、「(2)消費
者行動の解析に向けた情報収集」、「(3)ユーザーとのコミュニケーションツール(= Corporate Branding)」、「(4)自社保有メディアとしてのマネタイズ」の4つに大別される。(図C参照)
デジタルチャネルとの親和性の高い商品を保有するプレイヤーはシンプルにまず第一優先でこの「(1)ネット経由売上高」で目的設定を行うことが多い。しかしその適合は意外に難しい。その場合、「(2)消費者分析」や「(3)コーポレートブランディング」を目的とするようになる。
更に(2)は何のための分析かという問いに繋がる。自社のロイヤルカスタマーの属性把握やone to one Marketing、同時購入情報に基づくクロスセルの可能性、商品開発への活用。この目的により得るべき情報の幅と質は大きく変えなくてはならない。
例えば自社カスタマーの真の理解を目的とするのであれば、単純にカスタマー属性と購買情報だけではなく、サイト上でのユーザーの動きを数値として押さえるようにすべきである。極端な話、デジタル上の動きは全てが可視化可能である。例えばページ上のあるパーツをユーザーは何秒見ていたのか、どこに興味を引かれ、何は無駄な情報として飛ばしたのか。どういう順番で情報を得たいと考え、ブランドの何を訴求価値として認めたのか。購買に到るまでの必要要素は何で、最終的に踏み切らせた十分要素は何か? あらゆることが分かるが故に、デジタルの世界では目的の先鋭化が質を規定してしまう。
(4)の新たな目的はいくつも設定しうるが、例えばメディアとして間接的にマネタイズする方法が考えうる。デジタルプレイヤーであれば、これだけの訪問者がいるのであれば相当のメディア価値を感じ、多様なマネタイズのアイデアが浮かぶだろうが、リアルプレイヤーがオウンドメディアで広告ビジネスを始めても(多角化の一貫として広告事業へ領域を拡大する意図で無い限り)その意味は薄い。であれば、既存の取引先に対してのインセンティブとして、自社サイトのページを各種施策の広告枠として提供する等の間接的に本業のビジネスのコア領域をサポートするような使い方もある。
とにかく、自分たちにとってのデジタルの位置づけをはっきりさせ、その目的と整合性の取れた目標設定、施策の選択をすべきである。
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明治学院大学 経済学部准教授