経済学が教える、モチベーションを「見える化」する技術ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

あることをする際、その行動が他の行動に比べてどのくらいメリットがあるかを数量的に考察する「機会費用」。機会費用が高い仕事ほど仕事のやりがいにつながる。あなたの職場はいかがだろうか。

» 2016年04月07日 08時00分 公開
[佐々木 一寿ITmedia]
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 企業においてマネジメントをどうしたらよいか。どうしたらよりよいマネジメントを実践できるのか。これは経営の大きな、そして永遠のテーマのひとつであり、それだけに正解はひとつではなくさまざまに議論されるべきだが、今回は経済学的な視点からマネジメントを考えていきたいと思う。

経済学の重要概念「機会費用」でマネジメントを考える

経済学的にありえない。

 「機会費用」という概念はご存知だろうか。拙著の第一章にて詳しくかつ平易に解説をしているが、その要点を簡単に言えば、あることをする際、その行動が他の行動に比べてどのくらいメリットがあるかを数量的に考察することだ。起こした行動に合理的な根拠を与えてくれるもので、企業での仕事であれば、ある意思決定をした際、ほかの意思決定をしなかった合理的な理由となるものだ。

 辞書的には、機会費用は「ある選択をした際に、諦めた選択肢の中で最大の価値を持つもの」と定義される。取引先A社に仕事を発注すると決めたとしよう。それは他の候補社には発注をしないと決めることであり、A社を選んだ合理的な理由は、例えば価格が最も安い(クオリティは同等)ということだとして、A社を選んだメリットは、そのほかの候補社のなかで最もリーズナブルな会社(例えばB社)との比較でなされうる。

ここでのB社を選択したときのメリットのことを、経済学では「機会費用」と呼ぶ。これがなぜ重要かというと、B社のメリットを上回る選択が出てくれば、それ(例えばA社)に決めたほうがいいので、意思決定の数量的な基準点となるからだ(ここでひとつ老婆心ながらのアドバイスを。「機会費用」の概念は辞書的に暗記するというよりは、ぜひプロセス全体で「機会費用的な考え方」をまるごと理解するようにおすすめします。とくに実務面に生かしやすくなります)。

 では、事業マネジャーは、部下にある会社(C社)以上の取引先を見つけるように命じたとして、それをどのくらい促すべきだろうか。

1円でも安い発注先を、どのくらい探させるべきか

 発注を安く済ませられれば、事業部を管理するマネジャーは、自身が責任を持つ部門のP/L(損益計算書)をそれだけよく見せることができる。前期比よりも1円でもよく見せたい、と思うプライドの高いマネジャーもいるかもしれない。少ないキャッシュアウトはそのぶん利益に繋がるので、そのための努力はもちろん合理的である。

 ただ、ここで少し考えてみて欲しい。常にそうだと言えるだろうか。もし、総額でC社より1円安い会社を一週間かけて探したとしたらどうだろうか。その部門のパフォーマンスは高いと言えるだろうか。担当者の自己満足が満たされるならばまだいいほうで、一週間の労力が1円の価値にしかならないならば、会社探しなどはせずにC社に決めて、ほかの仕事をしたほうがいいのではないだろうか(この場合の機会費用は一週間で1円)。これは極端な例なので、すぐにその不毛さには気が付くだろう。しかし、受発注といったことに限らず、また金額や時間設定に幅を持たせていけば、どこの会社の現場でもよくある悩ましい光景となる(例えば3日で10万円、など)。

機会費用は、部下のモチベーションを「見える化」する

 機会費用が高い仕事ほど、パフォーマンスが高い状態と言えることも分かるだろう(「一週間で1円」よりも「3日で10万円」のほうが当然高い)。そして、その仕事の時間当たりの価値は、(仕事の内容自体への好みを別にすれば)「仕事のやりがい」として、担当者の満足度にも大きく影響を与える。

 この普遍性は強力で、仕事に関してのマネジャーの評価付けを待つまでもなく、リアルタイムで直接的に自身に訴えてくるものだ。誰であっても自分の時間が有意義であったと思いたいものだし、とくに優秀な部下であればあるほど、割にあわない不毛な仕事には嫌気をさすだろう。「もっと有意義な自分の使い方があるはずだ」と。実際、客観的に見てもかなり「もったいない」状況ではないだろうか。

 もちろん、一週間かかって1円の成果しか上げられなかった部下の能力に問題がある場合もあるだろう。しかし、流動的なビジネスシーンにおいては市場の物理的な限界や運不運の要素のほうが、個人の能力自体よりも制約条件になりやすいことを考えると、やはりマネジメントの責任範囲だといえる。

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