マネジャーが状況を見込んでGO/NOの目安をあらかじめ設定できる以上、当然だろう(例えば2日探して5万円以上安いところを探せなければリサーチを打ち切る等。ここでの労力の無駄の割り切りを、サンクコストと呼んだりする)。
責任感の強い部下が必要以上に自責に悩んでいる様子があれば、まずは即座に「気にしすぎないように」とフォローを入れるべきだ。ただ、そもそもに戻って考えると、マネジャーはどのように実際的な判断をすべきなのだろうか。
じつはこの種の「もったいなさ」は、P/Lからはなかなか分からないものだ。例えば残業代の計上など人件費が費用化されていればある程度は把握できるが、サービス残業や年俸定額制といった場合は、追加コストゼロの労働力を幾ばくかのP/Lの改善のために惜しげもなく投入してしまうインセンティブをマネジャーに与えるかもしれない。
そのとき、部下の機会費用が時間あたりでどんどん低下していく(仕事の価値が落ちていく)とすれば、部下たちの士気は下がり、疲弊が溜まっていき、最悪の場合にはその部署は継続性が危うくなってしまうかもしれない。これでは決してよいマネジメントとはいえないだろう。
逆に、モチベーションを上げるには、その人の機会費用を高めていくことが有効だ。1時間あたり5000円の価値の仕事をしていた部下が、8000円の価値の仕事ができるようになったとすれば、誇らしくも思えて(昇給への期待等は別にしても)充実感に包まれるだろう。
モチベーション維持には、褒めるといったコミュニケーションや、報酬のアップ(いわゆる「アメ」の部分)ももちろん大切だ。
さらに言えば、(好きな)仕事内容から得られる個人的な充実感はかけがえのない要素だろう(これは私が本を書く理由でもある。とても重要な要素ではあるが、個人特有の事情に依存しやすいこともあり、本稿では論旨が複雑になりすぎないよう敢えて触れていない。もしこちらに興味のある方は、拙著の最終章ほかいくつかの章が参考になると思う)。
高度に分業化された現代のマネジメントにおいては仕事環境の数量設計的なアプローチも非常に重要で、むしろ成熟した社会人たちにとっては、仕事で創出した価値の大きさ自体に満足するという動機づけが自然に行えるという意味で、スマートかつ本来的、普遍的なスタイルだと私は思う。
機会費用の概念は、マネジャーがそのような環境設計を実行するための大きな力になりうるもの。ぜひ、経済学的に理にかなった職場環境を実現し、チーム(職場、会社)に大いなる活力をもたらす存在として頼られ、また、部下たちが将来、スマートなマネジャーとして活躍するための良きロールモデルとなることを願っている。
経済コラムニスト、作家。横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、大手メディア複合グループ出版部門の報道系編集デスクなどを経て、現在はビジネススクールに在籍。ビジネススクールの研究員・編集委員として、経営学の教科書の著作も多数。近著に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社)、『「30分遅れます」は何分待つの?経済学』(日経プレミアムシリーズ)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授