第3回:「意識を変えざるを得ない状態」を作ることで意識変革を促しTransformationを実践する激変する環境下で生き残るためのTransformation 〜コニカミノルタの事例に学ぶ〜(2/3 ページ)

» 2016年07月13日 08時00分 公開

 介護施設では、リスクが高い入居者をできるだけ介護したいと思っているが、リソース不足で十分な対応ができていない。また、老人も何かある度に毎回ナースコールをするわけでもない。その結果、必要な時に必要な場所へ介護スタッフが行くことができず、助けられる人を助けられないというような問題が起こっている。

 このソリューションでは、入居者の普段の行動を映像から学習し、カメラで行動をモニタリングして、何かあったと判断した際には介護スタッフに知らせることができるようにした。介護施設で入居者が亡くなる主な原因には、病気・転倒・誤飲の3つがあるが、中でも転倒事故では、ナースコールをせずに自分でベッドから降りようとして転んでしまい、転んだことに介護スタッフが気づくことができずに亡くなられる方がいた。つまり、介護すべき人を介護すべき時にケアできていなかったのである。

 このソリューションは、このように介護スタッフが気付かずに、介護できなかった人を減らすことを目的として開発されたのだ。また、これ以外にも、介護スタッフの負担を減らすために、多くのベネフィットを提供することを狙っている。

 例えば、介護スタッフの移動距離だが、試行では夜間の移動歩数が908歩から647歩へと29%減少できた。これは、スマホをプラットフォームにしたことでナースセンターに戻らなくても介護士が異常を検知し、現地から現地へ行けるようにしたためである。

 さらに、デジタル化された情報を活用することで、介護記録転記のムダの削減、事故発生時の前後画像の記録による訴訟対策への活用など、さまざまな効果を生み出すことを狙っている。さらに、今後はAIも活用してソリューションの付加価値向上を目指すとのことだ。

 このソリューションの検討に際しては、研究員30人が3カ月かけて70社の介護施設を実際にまわり、自ら介護を実践することでニーズの把握を行った。その結果、「何が必要で、何が不要かを開発者が全て分かった上で開発することができたため、介護施設と介護士のニーズに合ったソリューションにすることができた」と技術担当常務執行役の腰塚氏は語っている。

 つまり、ヘルスケア事業のこの一連の取り組みでは、技術者が現場に行き、営業は技術者と共に市場と会話することで、ビジネスの基本である市場ニーズを販売と技術が一体となって把握し、技術者は市場ニーズに即したサービス・ソリューションの開発を、営業はその特性を生かした提案営業を実践できるように、人材の意識変革を行ってきているのである。

 一方、主力事業の情報機器事業では、グローバルレベルで意識変革が行われた。2010年末にAll Covered Inc.を買収した際には、ビジネスの作り方・進め方に関しても両社共同で検討を行った。コニカミノルタのMFPを軸としたドキュメントソリューションとAll Covered Inc.のManaged ITサービスではカルチャーが違うため、これらをクロスで売ることで他社との「違い」を持ち込むというコンセプトでビジネスを開始したのだ。

 ただし、この取り組みの本当の狙いは、「当社の営業がManaged ITサービスを売ることでITについて理解を深め、今後の営業時に付加価値を付けられるようにすることだった」と山名社長は当時を振り返っている。

 その実行に際しては、「All Covered Inc.は、規模の割に充実したネットワークを持っており、一緒になったら彼らは当社とスケール感を持ってやってくれる、と想定していたが、これは思ったようには進まなかった」と現場で指揮を執っていた原口常務執行役は語っている。

 カルチャーやノルマ、ビジネスサイクルが異なる両社が融合することは容易ではなく、ローカルの独立 IT企業であったAll Covered Inc.には自律した企業であり続けたいという思いもあったようである。このような状況に直面し、経営陣は「われわれが変わらないといけない」という意識を強く持ち、ITが分かる人材の採用を行った上で直販メンバーの入れ替えも行い、外からの血も入れることで自社社員の意識を変えながら徐々に融合を図っていったのだ。

 「買収後の3年間は、当社が主体となり、直販のプロセス・商材・事業を変え、両社のベクトルを合わせる試行錯誤の期間だった」と原口氏は振り返っており、現場での泥臭い取り組みで、社員の意識変革を行ったと言えるのではないだろうか。

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