定量化と可視化ができないところが人脈の難しさだが「ある」、「なし」ではかっていいのか。
法政大学ビジネススクール(経営大学院イノベーション・マネジメント研究科)の高田朝子です。私は組織行動の研究者です。なにやら難しく聞こえるかもしれませんが、どのようにして結果を出せるチームを作るかや、どのようなリーダーシップをとると、組織がうまく機能するかなど、組織や人に関するさまざまな出来事を研究しています。
これから数回、ビジネスパーソンの皆さまと一緒に「人とつながること」について考えていきたいと思います。
学生達に「なぜビジネススクールに来たのか」と質問すると、大多数から「自分のこれからの人生のためのネットワークを作りたい」「学ぶことで今までの経験の棚卸しをして未来に備えたい」という2つの答えが異口同音に返ってきます。これは私がビジネススクールで教え始めた2008年から全く変わりません。
E-Learningではなく、わざわざ仕事帰りの時間をビジネススクールへの通学に費やすことの重要な理由は多様な人材との出会いです。確かにビジネススクールは人種のるつぼですから、日常であまり会うことのできない職種の人と机を並べ議論します。これによって得るつながりが広く深いのは間違いありません。もちろん、全ての学生がこの種のつながりを得ることができるとは言いませんが。
わが校で学ぶ留学生に同じ質問をすると、「日本人との人脈構築だ」と清々しいほどきっぱりと答えます。日本で自分がビジネスをしていくためのネットワークを作りたいというのです。教員としては勉強を第一義と取り敢えずは言ってもらいたい気もするので、内心複雑なものがあります。
ビジネススクール進学の目的の一つが人脈構築であるということは古今東西を問わず世界中同じ現象です。私自身、遥か昔に日米でMBAを取りましたが、その当時と現在とでも状況は変わっていません。
「ビジネスでは何を知っているかより誰を知っているかだ」といわれるように、人と人とのつながりはビジネスの成功にとって非常に重要な要素です。しかし、案外何をもって人脈とするのか、どういう風に人脈が役に立つのかについては、ぼんやりしたイメージしかないように思います。
ネットを眺めても、ビジネス雑誌を開いてみても、人脈作りがビジネス成功の秘訣であるということと、人脈があることが人生を豊かにするという趣旨のことを多くの人が説いています。しかしそこでなされている議論は、その構造や実態を明らかにするものではなく、人との接しかたについての精神論や人とつながるテクニック(これが結構興味深い)を示したものが大多数のようです。
「何となくあった方が良くて、あると得なもの」が人脈について持つ多くの人のイメージでしょう。
一般的に「人脈がある」と表現される状態は2つのパターンがあります。一つは本人申告ベースです。私はAさんを知っている、B君も同窓生だ、Cさんとはパーティで名刺交換した、よって私には人脈があると自分で評価しアピールする場合です。もう一つは他人が「あの人は人脈がありそうだ」とその人の地位や人柄を総合的に評価して判断する場合です。いずれにせよ、個人の判断ですので定量的に計ることはできません。
あくまでも個人の判断ベースであることが、人脈が持つうさんくささを作り出す原因の一つです。異業種交流会に参加して、多くの人の名刺を集め、フェイスブックでつながることを人脈作りとするのならば、それはそれで個人の定義ですから間違っているとはいえません。単につながっているだけの状態をその人が「自分は人脈がある」と評価しているからです。
しかし、人脈とは自分にとって何らかの「役立つこと」があるはずだと思っている人にとっては、ただつながっているレベルで大喜びをして、自らを人脈があると評価する人を見て、もやもやとした感情を覚える。定量化と可視化ができないところが人脈の難しさです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授