耐震偽装や手抜き工事の原因は? 理解しておきたい「建設の問題」ビジネスパーソンのための建設と建築(1/2 ページ)

建設・建築の問題は造り手が担う責任も住人に与える影響も大きく、結果として社会に与える影響も大きくなる。なぜ問題は起きるのか?

» 2016年12月05日 07時05分 公開
[木村讓二ITmedia]

 耐震偽装や手抜き工事といったニュースは、たびたび世間を騒がせます。持ち家の人や、これから分譲マンションなどを購入予定の人などは「この物件は大丈夫だろうか」と不安を感じることもあるでしょう。

 そこで今回は、建物にまつわる問題と、その原因について解説します。

ギリギリを追求するデベロッパーと建築士

 建築関連の問題は、設計に起因するものと、施工に起因するものに分けることができます。

 設計に起因するものとして代表的なのは、2005年に起きた耐震偽装問題でしょう。1級建築士が耐震構造計算書を偽装し、法律が定める安全基準に満たないマンションが複数世の中に流通した問題です。

 建築士が偽装に手を染めた要因の1つには、依頼を受けるデベロッパーとの関係があります。

 デベロッパーには、売れるマンションを、できるだけ早く、できるだけ安く作りたいというニーズがあるため、建物の強度に関わる柱や梁をできるだけ細くし、鉄筋などをできるだけ少なくして、法律の基準を満たす図面を描いてくれる建築士を探します。つまり、デベロッパー側から見ると基準ギリギリで設計できる建築士が「いい建築士」となり、建築士側としても基準ギリギリを追求することが仕事を増やすポイントとなるわけです。

 それ自体は建設コストなどに対する考え方の話ですから問題とはいえません。コスト管理しない造り手はいないでしょうし、コストが下がれば購入者も安くマンションを買うことができます。

 しかし、問題の建築士はギリギリを超えました。しかも、耐震構造計算書を偽装して実際よりも耐震強度があるように見せたわけです。

 また、耐震構造計算書は住民の命に関わる問題であるため、偽装やミスは審査工程のチェックで判明するように仕組みが作られています。しかし、このケースでは指定確認検査機関(国土交通大臣や都道府県知事から指定された民間の機関)のチェックで偽装が見抜けませんでした。耐震構造に問題がある20棟ものマンションが造られた背景には、建築士の私利私欲と、検査機関が機能しなかったという2つの要因があるのです。

費用・工期優先の方法に問題はないか?

 施工に起因する問題では、横浜市内のマンションが傾いた問題が記憶に新しいところ。原因は、マンション建設時に地中に打ち込んだ杭が、支持層という固い地盤まで届いていなかったことでした。

 杭打ちは建物の基礎を作るために行うもので、杭が支持層に届いているかどうかは、打ち込んだ時にメーターで確認できます。このマンションのケースでは50数本打ち込んだ杭の一部が支持層に届いていなかったのですが、別の杭のデータを流用して届いているように見せたのです。

 では、なぜ杭が支持層に届かなかったのでしょうか。

 マンションなどを建てる場合、土地を購入したデベロッパーは地盤調査(ボーリング調査)を行います。具体的には、地下何メートルの所に支持層があるか穴を掘って調査し、その結果を踏まえて杭を準備するわけです。

 50本の杭を打つ場合、50か所で調査すれば、支持層まで届く杭が揃います。しかし、調査には費用と時間がかかります。前述の通り、デベロッパーには、早く、安く作りたいというニーズがありますので、ここで費用と工期を圧縮できます。例えば、A地点とC地点で調査し、両方とも20メートル下に支持層があると分かれば、その間にあるB地点も20メートルの杭で支持層に届くだろうと推測して工事することができるわけです。

 問題は、支持層には凹凸があるということです。地面が平坦でも、地中の支持層が同じ形をしているわけではありません。ところどころ深くなっている場所があれば、推測で準備した杭では長さが足りません。今回のケースでも、14メートルの杭を打った場所の支持層が、実際には深さ16メートルのところにあったことがわ分かりました。そのような可能性も踏まえて、杭打ちする際にメーターで確認することが大切なのです。

 打ち込んだ杭が支持層に届かなければ、あらためて長い杭を準備する必要があります。しかし、そのためにはさらなる時間と費用がかかります。そのような背景から、このケースではデータの改ざんが行われたと見られています。

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