ブルー・オーシャン戦略による新市場創造の理論的・実証的研究を目的に設立されたWABOSIの創設記念シンポジウム「WABOSI SUMMIT 2017」が開催された。WABOSIは、豊富な事例研究と定量的研究を通じて、産業界の発展にも寄与することを目指している。
早稲田ブルー・オーシャン戦略研究所(Waseda Blue Ocean Strategy Institute:WABOSI)は3月10日、日本発ブルー・オーシャン戦略の最前線を紹介するWABOSI創設記念シンポジウム「WABOSI SUMMIT 2017」を開催した。「ブルー・オーシャン戦略」は、仏国のビジネススクール「インシアード」の教授であるW・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏の著書で紹介された経営戦略論。日本では、2005年に初版が発刊されている。
WABOSI SUMMIT 2017の開会にあたり、所長である川上智子氏が登壇し設立するに至った経緯について、次のように語った。「WABOSIという略称は、"日本の(和)星"と覚えてほしい。WABOSIの設立は、2011年にインシアードでキム氏と会い、日本の事例を探すプロジェクトをスタートしたのがきっかけ。6年を経て、ようやく事例もそろってきたことから、2016年4月に設立に至った」
WABOSIは、ブルー・オーシャン戦略に代表される 新市場創造の理論的・実証的研究を行うために設立された学術研究拠点である。豊富な事例研究と定量的研究を通じて、知の蓄積と共有のための基盤を整備し、学術的な貢献を世界に発信し、産業界の発展にも寄与することを目指している。川上氏は、「具体的には、学問領域の融合、理論と実践の融合、文理の融合、研究と教育の融合という4つの融合に取り組んでいく」と話している。
基調講演には、早稲田大学 大学院 経営管理研究科の根来龍之氏が登場。「ブルー・オーシャン戦略の理論と実践 〜理論が持つ力〜」をテーマに講演した。
「"実務家にとっての理論"は、実務のヒントになればよい。そのためには、内容を理解することが必要だが、理解すること自体が目的ではない。一方、"理論家にとっての理論"は、従来の理論との違いを理解し、批判するためのもの。そのためには、内容を正確に理解することが必要だが、理論の紹介自体は目的ではない。私自身も、偉い先生の理論をそのまま紹介することは好きではない。輸入学問には抵抗感があり、独自理論の提案が使命だと考えている。しかし、世の中には、広く普及している概念や言葉があり、それを知っていることで、ものの見方が変わるようなパワフルな概念や言葉がある。これを"言霊化"と呼んでいる」(根来氏)。
言霊化した経営用語には、「セグメンテーション」「差別化」「ドメイン」「ビジネスモデル」などの言葉がある。根来氏は、「これらの言葉は、誰かが発明した言葉ではない。実務家と研究者のキャッチボールで生まれた言葉である。もう1つ、個人名とともに世の中に普及している言霊化もある」と語る。
例えば、野中郁次郎氏の「形式知・暗黙知」やクレイトン・クリステンセン氏の「破壊的イノベーション」、そしてW.チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏の「ブルー・オーシャン戦略」などがある。
ブルー・オーシャン戦略とは、競争のない市場空間を切り開き、新しい需要を掘り起こすための戦略である。差別化と低コストをともに追求し、その目的のためにすべての企業活動を整合させる。一方、既存の市場空間で競争し、既存の需要を引き寄せる戦略は「レッド・オーシャン戦略」であり、差別化か低コストのどちらかを選んで、企業活動すべてをそれに合わせる。
例えば、自動車産業の歴史で振り返ってみると、まずは1893年にデュリエ兄弟が1気筒エンジン搭載車を生み出した。この自動車は、注文生産で、平均世帯収入の約2倍の価格という贅沢品だったが、「技術革新」と「需要創造」により自動車産業を創出した。まさにブルー・オーシャンである。しかし、スタートアップやベンチャー企業が新しい市場を創出することだけがブルー・オーシャン戦略ではない。
根来氏は、「既存の企業が新しい市場を切り開き、"新しい価値を創造する"こともブルー・オーシャン戦略の1つである」と語る。1908年に登場したT型フォードは、新たに自動車を発明したわけではない。非熟練工による流れ作業により生産され、馬車より安い大衆のための自動車を開発するという新しい価値の創造により、需要創造を実現した。これもブルー・オーシャンの好例と言える。
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明治学院大学 経済学部准教授