自動車産業でも分かる通り、ブルー・オーシャン戦略には、技術革新を伴う需要創造と伴わない需要創造がある。1930年ごろのGMは、ファッション性を重視し、定期的にモデルチェンジをする計画的陳腐化により新たな市場を創造した。日本の小型車、ミニバンなども、新たな価値の提案ではなく需要創造である。これらは、技術革新ではなく「シフト」。一方、ハイブリッドや電気自動車は、技術革新と需要創造である。
根来氏は、「ブルー・オーシャン戦略は、差別化戦略であるという誤解もあるがブルー・オーシャン戦略と差別化戦略は違うものである」と言う。何が違うのか。差別化戦略では、高コストと高価格により、プレミアムな価値を提供することで差別化を実現する。一方、ブルー・オーシャン戦略は、価値とコストの比較から脱却し新しい需要を創造する。
「コストと差別化の二者択一ではなく、二兎を追うのがブルー・オーシャン戦略である。このとき、何かを"増やす""付け加える"だけでなく、何かを"減らす""取り除く"を忘れないことも重要。その結果、新しい市場を創設するのがブルー・オーシャン戦略の基本的な概念となる」(根来氏)
ブルー・オーシャン戦略では、「戦略キャンバス」や「ERRC(取り除く:Eliminate、増やす:Raise、減らす:Reduce、創造する:Create)グリッド」など、いくつかのツールが提供されている。戦略キャンパスは、自社の取り組みと他社の取り組みを価値とレベルで比べるためのツール。ERRCグリッドは、取り除く、増やす、減らす、想像することで、コストと差別化を同時に追求し、新しい価値を実現するためのツールである。
例えばQBハウスの戦略キャンパスでは、時間をかけてサービスしていたヘアカットを短時間にすることで価格を下げるという、これまでとは逆の価値観の新たなビジネスモデルを確立したことが分かる。注意が必要なのは、QBハウスはヘアカットにおける新しい価値は提供しているが、ヘアカットという新しい市場を創造してはいないことである。
「QBハウスの登場により、これまで一般の理髪店に行っていた人が、QBハウスに行くようになったとすると、一般の理髪店とQBハウスの間での競争が存在することになる。ということは、完全なブルー・オーシャン戦略とはいえないかもしれない。しかしブルー・オーシャン戦略は、理念系であり、既存の製品・サービスとまったく競争しないものはほとんどない」(根来氏)。
またカナダのエンターテイメント集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、テーマ性や芸術性の高い音楽とダンスなどを追加し、動物や花形パフォーマーを取り除くことで既存のサーカスと正面から競争するのではなく、これまでサーカスを見なかった新たな顧客を引き付けることに成功している。
根来氏は「ブルー・オーシャン戦略の良いところは、言霊化していることで、ビューティフルでパワフル。"ブルー・オーシャンを創ろう""ブルー・オーシャンを目指そう""レッド・オーシャンにならないように"など、多くの人が使う言葉になっている。ブルー・オーシャン戦略には、確実に実務のヒントがある。しかし、理論は現実のある側面を純粋化したものでしかない。つまり、オールマイティな理論は存在しない。どんな理論でも、それを理解して、自分なりに咀しゃくし、理論どおりにしない方が、差別化が可能になることがある。また、新しい市場をもっともっと切り開ける可能性もある」と講演を締めくくった。
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明治学院大学 経済学部准教授