ディズニーは、なぜ常にたくさんの人を集める企画を生み出せるのか。それは「夢」と「魔法」から生まれてくる。感動を生む企画の秘密を紹介する。
ITmediaエグゼクティブ オープンセミナーに、元ウォルト・ディズニー・ジャパン(ディズニー)シニア・プロデューサーの大畠崇央氏が登場。著書である「ディズニー流 感動を生む企画の秘密(すばる舎)」の内容に基づき、約10年間のディズニーでの経験を生かした、ヒットする企画を生み出す10のストーリーを紹介した。
「多くの人から"ディズニーは、なぜたくさんの人を集めることができるのか"と聞かれる。ディズニーに在籍していたときは、"魔法使いがいるからです"と答えていたが、ディズニーも普通の会社であり、予算や目標、達成率などが細かく決められており、方針を間違えると普通に失敗することだってある」(大畠氏)
例えば、米国ディズニーランドのアトラクションである「ホーンテッドマンション」も、実は失敗するかもしれないプロジェクトの一つだった。外観は完成したのだが、スケジュールの大遅延で、内装がまったくできておらずオープンが約2年遅れた。
しかしウォルト・ディズニーは、「ゴースト入居者募集中」という看板を出すように指示し、さらに2年後に「ほぼ完売! 残りは人間の皆さん仲間になりませんか?」という看板を出させた。スケジュール遅延という大失敗を、ストーリーをつくりあげることで大成功のプロジェクトに変えてしまったのだ。
大畠氏は、「失敗だとあきらめた時点で、そのプロジェクトは失敗になる。常に挑戦を続けることが必要。10割バッターはいない。間違いを直し続けることで、良い結果を残せるようになる」と話し、企画の根源やひらめきの原点など、ディズニーにおける企画の考え方を10のストーリーで紹介した。
企画の根源は、徹底的にゲスト代表の視点になることであり、その究極が「自己満足」である。キャストが笑顔になれない企画を楽しめるゲストはいない。ヒットとは結果であり、ゲストの通信簿である。
ピクサーの責任者であったジョン・ラセターは、ディズニー映画の低迷時にディズニーの責任者も兼任することになった。このとき方針を「ヒット作を作りなさい」から「自分が良いと思うものを作りなさい」に変更した。この方針により、ディズニー映画は、再びヒット作を連発するようになる。
「ラセターは、"自分が良いと思うもの、楽しいと思うものを作りましょう。"と話し、私はそれを「まず究極の自己満足をしよう」とチームに伝えていた。データ分析も必要だが、それは過去の証明でしかない。最終的には、自分の判断が重要になる」(大畠氏)
ディズニーの企画は、「夢」と「魔法」の2つの要素から成り立っている。大畠氏は、「"夢と魔法では商売にならない"と思う人は多いと思う。しかし、フィリップ・コトラー氏がマーケティング4.0の考え方で自己実現が求められていると指摘しているのと同様に、現在は夢が必要な時代であり、夢と魔法はどの企業にも必要なキーワードである。企画者は目的を売り上げにするのではなく、顧客の夢をかなえなければならない」と話している。
ディズニーといえば、ウォルト・ディズニーが有名だが、実はもう1人のディズニーとしてウォルト・ディズニーの兄であるロイ・ディズニーがいる。大畠氏は、「ウォルト・ディズニーは企画担当であり、ロイ・ディズニーは財務を担当していた。この2人の信頼関係があったからこそ、ディズニーの企画は成功した」と話す。
在籍当時のディズニーのチームでの考え方では、全体の売り上げを見るのが上層部であり、顧客満足度を考えて目標を積み上げるのが現場の企画者であった。大畠氏は、「目指したい組織は、イノベーションを起こせる組織、行動力のある組織、失敗できる余裕のある組織である。そのために必要なのは、"ホウレンソウ"より"カリフラワー"である」と言う。
ホウレンソウとは上司・部下でのコミュニケーションにおいて必要とされる、報告、連絡、相談のことであるが、それは経営者視点の考え方であり、上司が進捗管理をするのに有効なもの。一方、カリフラワーは同じコミュニケーションでも、仮説を話す、フラっと雑談する、ワーニングを出すことが重要という考え方で、企画を推進のためのものである。そのためには、机上の議論よりも実践ができる信頼関係を作り、スピードを重視することが必要になる。ちなみに、カリフラワーはディズニー用語ではなく大畠氏の造語である。
企画者としては、仕事の時間、遊びの時間と明確に区切るのではなく、仕事中でも遊んでいる、遊んでいるときでも仕事中であるという感覚を持つことが望ましい。
「人はインプット以上にアウトプットすることはできない。そこで1年1趣味を実践している。スポーツや音楽、勉強など、毎年、違う趣味を持つことで、新たな発想が生まれる。特別な理由はなく、なんとなくやってみようという程度からスタートしているが、ひらめきの原点をたくさん見つけることが重要」(大畠氏)
大畠氏はディズニーで、「白雪姫」「シンデレラ」「美女と野獣」「アラジン」「眠れる森の美女」「リトルマーメード」という、6人のプリンセスの物語に登場する悪役にあわせて企画を考えていく手法を実践していた。事前に用意したチェックリストに答えることでアイデアを生み出す「オズボーンの発想法」を応用したものといえる。
例えば、ジェットコースターの企画を考える場合、「世界で1番美しいのはだれ?」と聞く白雪姫の王妃(魔女)から「世界で1番短い(動かない)スターツアーズ」とか、実子を「ひいき」するシンデレラの継母から「宇宙飛行士をひいきしたスペースマウンテン」、美女と野獣を「強引にくっつけた」ガストンから「お化け屋敷とくっつけたタワー・オブ・テラー」といった具合の発想法である。
また伝えたいことを、まずは120字にまとめ、次に16文字に、最後に漢字1文字にする「言葉を減らす練習」も行っていた。これにより、要点がしぼられ、自分の考えを明確にできる。大畠氏は、「自分の会社にあわせたテーマで発想すること、ディズニーのストーリーにすることで、企画を身近にできる」と言う。
さらにディズニーでは、「ブルースカイ」という発想法を実践している。ブルースカイの由来は、青天井であり、すべてを否定することなく突き抜けたアイデアを出すもの。たった1つだけルールがありそれは「アイデアがないのが、最も悪いアイデアである」。
「1つのアイデアに対し、"もしこうだったら(Yes, if)……"という発想を繰り返すこと。"できないよ。だって(No, Because)……"は厳禁である。自分視点で、制限なく、子ども心を持って、無邪気に話すことが重要。これにより、最終的に1つのストーリーを導きだすことができる」(大畠氏)
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明治学院大学 経済学部准教授