連載
» 2017年08月21日 07時21分 公開

視点:日系製薬企業の戦略的トランスフォーメーションの進め方 (2/3)

[服部浄児, 久保慶治,ITmedia]
Roland Berger

2、従前よりも大胆かつ柔軟なアクションの必要性

 コンフィギュレーション・マネジメントの意味する所は大きく3つ、事業・機能・地域軸でのビジネスの組み換えである。国内製薬業界に当てはめると、事業軸(疾患領域・Beyond/Around ドラッグ含めたケアサイクル上の周辺領域への染み出し)・機能軸(バリューチェーン上の各機能での自前・外部活用のしゅんべつ)・地域軸(国内市場から新興国含む海外市場へのシフト)と読み替えることができる(図A参照)。

 足元でも、疾患領域の再定義を目指したM&Aやノンコア事業の売却、バリューチェーン上のアンバンドリング(外部活用)を図る為のCROやCMOなどのファンクションプロバイダ活用、新興国進出を志向した現地法人設立やクロスボーダーM&Aなど、コンフィギュレーション・マネジメントの考えにのっとったビジネスモデルの変革の動きが見られる。とりわけ核となる疾患領域の組み換えにおいては、複数の疾患領域において企業規模をてこに研究開発・製造・販売を一貫して手掛けるインテグレーター(A)と、特定疾患にフォーカスし治療や予防・予後などケアサイクル全体に渡って価値提供を図る疾患スペシャリスト(B)への分化・二極化が進展すると弊社は予測する。

 国内メーカーを俯瞰(ふかん)した際、その動きへの対応の度合いは異なる。数社のメガファーマーは疾患領域を幅広く持ちインテグレーターとして規模のメリットを享受(A)し、また特定の疾患領域にフォーカスして研究開発や営業の効率化を進める疾患スペシャリストも存在する(B)一方で、疾患領域の絞り込みが必ずしも成されていない中規模ファーマー(C)も依然として多いのが実情だ(図B参照)。

 特に企業規模がインテグレーター程大きく無い中で、複数の疾患領域横断的に自社で研究開発〜製造販売までを手掛けている中規模ファーマは、これまでより一層抜本的にコンフィギュレーション・マネジメントを推し進め、自社が強みを持つ疾患領域を絞込む必要があるだろう。その際の手段として、従来はライセンスインやM&Aを通じたシーズ獲得が主であったが、有望なシーズへの開発リスクを見極めた上での多大な投資や、不要資産も含めた企業全体の買収は、必ずしも中規模ファーマーにとって最良の選択と言えないケースも多いのではないだろうか。事実、"安価で買える魅力的な資産はあらかた買収されてしまっている"との見方も強い。その様な中、より大胆かつ柔軟にコンフィギュレーション・マネジメントを進める手段として、事業スワップとコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の設置に注目したい。

 特に欧米のメガファーマーを中心に取られているコンフィギュレーション・マネジメントの手段の1つが事業スワップである。対象企業の有望資産を取得する一方で、自社のノンコア領域にかかわる資産を売却する手法で、ここ数年では、Novartis・GSK・Lillyの事例およびBoehringer・Sanofiの事例が記憶に新しい。

 2015年、Novartis・GSK・Lillyの間で3社間で行われた事業スワップは、Novartisの動物薬事業がLillyに売却され、Novartisのワクチン事業とGSKのがん事業がスワップされ、NovaritsとGSKの間でOTC事業に関する合弁会社を設立したものであった。これによってNovartisはノンコア事業であった動物薬事業およびワクチン事業を自社から切り離す一方、それらで得るキャッシュを充当し自社が注力するがん事業の魅力的な事業基盤獲得・OTC事業における共同体制の構築を一挙に成し遂げたのである。

 2016年のBoehringerとSanofiの事例も同様で、Sanofiの動物薬事業をBoehringerに売却する一方で、BoehringerからOTC事業を取得し、OTC事業への注力を大胆に推進した形である。Boehringerの事例での、「BoehringerはOTC事業を切り離す必要性が必ずしもあった訳では無いが、彼らにとって動物薬領域のスペシャリストになるまたとない機会だった」、という観測筋のコメントが疾患スペシャリストにならんとする姿勢の強さ・事業スワップの有用性を示している。事業スワップの最大の利点は、通常のM&Aの様な多額の投資を必要とすることなく、かつ不要資産の切り離しも並行して一手で実施できる点であろう。

 日系中規模ファーマーにおいては、自社と相補性の高いパートナーを見つけられるか、という点が当然重要な論点となるが、国内製薬会社の裾野の広さや、より疾患領域を絞り込むべき中規模ファーマーが多く存在する点に鑑みるに、国内メーカー同士での事業スワップは中規模ファーマーにとって十分に有りうる選択肢ではないかと考える。(図C参照)

 また、2つ目の手段として紹介したいのがCVCの設置だ。こちらは欧米メガファーマーのみならず、近年日系ファーマーにおいても見られる動きで、企業内に専任組織としてベンチャーキャピタルを設置するものである。製薬業界のバリューチェーン上で最もハイリスクな側面が強い"研究"機能を、外部リソース活用によりリスク緩和する意味で、機能軸でのコンフィギュレーション・マネジメントの先進的な手法ともいえる。

 有望な外部のシーズや技術を恒常的に抽出し、出資という形で先鞭(せんべん)をつける形式が一般的で、開発リスクの問題は付いて回るものの、M&Aやライセンスインよりも小額の投資で(場合によっては複数社共同で)自社のパイプライン増強が可能である。現状は欧米・日本共にいわゆるメガファーマーによる展開が主であるが、特定領域の先端情報やシーズを誰よりも早く察知し、競合に先んじて染手するという意味では、疾患スペシャリストを目指す中規模ファーマーにこそ重要となる機能なのではなかろうか。

 具体例としては、武田薬品工業は、アメリカ支社である武田アメリカ・ホールディングスの子会社として武田ベンチャー投資を設置しており、研究投資活動に加えて、新規ビジネスにつながりうる外部リソースの新技術への投資をも推進している。また、売上高の約9割が腫瘍領域からなる大鵬薬品工業も、2016年にTaihoVenturesを設置し、抗がん剤の研究開発や創薬技術に特化して広く投資を行う意向だ。さらに、これらのCVCを通じて、デジタルヘルス事業といった近年注目を集めている領域のシーズの探索も期待でき、競争力向上の一助ともなる。疾患スペシャリストを目指す中規模ファーマーにおいても、現状事業領域の絞り込みを進めた上で、当該領域での競争力を担保し続ける為の打ち手として一考に価すると思料する。

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