「叱ると辞める」「パワハラにならないか?」「褒めて育てねば」と、あなたは叱ることに臆病になっていないか? 「叱らない」リーダーの態度からも、メンバーはメッセージを受け取っている。
この連載は、「指示待ち人間を作るリーダー5つのタイプ」を全5回にわたってお届けします。今回は2回目です。
グローバル化、中途採用の増加、女性活用や再雇用の促進などで組織の多様化が進むと、より明確な指針やルールが必要になる。「タイプ1 聞き手の能力に頼りすぎるリーダー」で詳説した通りだ。
では、指針やルールに従わないメンバーがいたら、どう対処すべきなのか? 例えば、「終業時に作業報告書を提出する」というルールがあるとする。これを怠るメンバーを放置すると、どうなるだろう?
従わなくても許されるルールは、重要性が低いと受け止められる。重要性が低いと認識されると、従わなかった個人だけでなく、チーム全体が作業報告書を出さなくなる。「出せ」といえば、そのときだけは出すけれど、またすぐに出さなくなる。
だから、指針やルールに従わないメンバーを放置してはいけない。リーダーとしては、ルールに従っていない事実を指摘し、ルールに従うことを要望しなければならない。
期待しているメンバーは叱るのに、期待していないメンバーは叱らない。男性は叱るのに、女性は叱らない。年少者は叱るのに、年長者は叱らない。機嫌の悪いときには叱るが、機嫌の良いときには叱らない。これらの一貫性を欠く叱り方も、「重要ではない」というメッセージとなる。
重要ではない指針に照らして、自発的な行動をとるメンバーなどいない。こうして叱れないリーダーは、知らず知らずのうちに指示待ち人間を作っている。
叱るというフィードバックは、リーダーの重要な仕事だ。しかし、「叱ると辞める」「パワハラにならないか?」「褒めて育てねば」など、叱ることに臆病になっているリーダーが多い。
叱るとは、「怒っている」という感情を伝えることでも、恐怖で相手をコントロールしようとすることでもない。相手を批判したり、裁くこととも違う。
指針やルールに従って自発的に行動してもらうこと。それが、指示待ち人間を作らないために「叱る」目的だ。これを達成するためには、3つの要素が必要だ。(1)指針やルールが守られていない事実の提示、(2)その指針やルールが達成しようとしている目的の確認、(3)目的達成に向けた協力の要望である。
「終業時に作業報告書を提出する」というルールに対して、「昨日もまた、作業報告書が出ていないぞ」「いつも作業報告書を出さないね」。これらの叱り方は、事実の提示といえるだろうか? 「また」や「いつも」は、事実を具体的に説明していない。「出していない」と決めつけるのも少し危険だ。「昨日の作業報告書をまだ受け取っていない」「先週は1回しか作業報告書を受け取っていない」など、事実だけを伝えたい。
それでは、「作業報告書を夜中にLINEで提出するのは非常識だよ」。これはどうだろう? 叱るのは、守るべきルールがあらかじめ明示されていることが大前提だ。「終業時に作業報告書を提出する」というルールには、期限や報告の手段は定義されていない。この場合ルール違反ではないので、叱る対象にはしない。
非常識だと決めつけることもしない。多様化が進む社会では、あなたの常識がみんなの常識とは限らない。想定外の行動を取るメンバーも登場するだろう。ルールをどのくらい詳細に設定すべきかは、「タイプ1 聞き手の能力に頼りすぎるリーダー」を参考にしてほしい。
指針やルールに従わないメンバーは、目的を正しく理解していない場合が多い。「作業報告書を提出する目的は理解できているかな?」と確認してみることが必要だ。
ある部品メーカーを経営するA社長が、作業報告を怠りがちな従業員に質問してみた。すると、「自分の1日を振り返り、課題や改善点などを整理するため」と答えた。これは、A社長が過去に伝えた言葉の通りだそうだ。ただ、課題や改善点を自分で整理することだけが目的だとすると、社長に報告する必要性は見いだし難い。
そこでA社長は、「進捗(しんちょく)の共有も重要な目的だ。ある作業の遅れが他の作業に及ぼす影響を予測し、準備ができる。協力しあって納品期日を順守できれば、顧客の信頼も得られる」と伝えた。社長に報告する必要性が理解できた従業員は、それ以降、言われなくても毎日作業報告書を提出するようになったそうだ。
目的を理解してもなお、従わないメンバーがいる。その指針やルールが、より上位の目的を達成するために有効ではない、効率的ではない。そう考えている可能性が高い。A社長の例でいえば、作業報告による「進捗の共有」が「納期の順守」と「顧客の信頼獲得」を実現できると信じていない場合だ。
この場合は、「終業時に作業報告書を提出する」というルールは、一つの手段にすぎないことを伝える。「納期の順守」と「顧客の信頼獲得」が実現できるのであれば、他の手段でもよい。もっとよい方法を提案してくれたら、チームで議論したい。ただし、チームが合意するまではこのルールに従ってほしいと要望する。
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明治学院大学 経済学部准教授