グローバル化、中途採用の増加、女性活用や再雇用の促進などで組織の多様化が進み、聞き手よりも、話し手の能力が問われる時代になってきている。
この連載は、「指示待ち人間を作るリーダー5つのタイプ」を全5回にわたってお届けします。
「最近の若い子は、言われたことしかできない」と嘆くリーダーと、「うちのリーダーは指示が出せない」と諦めているメンバー。言われたことしかできないと嘆くリーダーは、いつの時代にもそれなりにいたような気がするが、指示が出せないリーダーを諦めるメンバーは、あまり記憶にない。ところが、これが最近の「あるある」なのだ。
共有されているコンテクスト(言語、知識、体験、価値観、ロジック、指向性など)が多い日本社会は、多くを語らなくても通じ合えるハイコンテクスト文化といわれてきた。私が新卒のコンサルタント時代には、「一を聞いて百を知れ」と言われたくらいだ。百を理解する聞き手側の能力が問われていたのだ。しかし、それを可能にする共有コンテクストも豊富だった。
ところが、グローバル化、中途採用の増加、女性活用や再雇用の促進などで組織の多様化が進むと、共有するコンテクストの量が少なくなってくる。そうなると、コンテクストに依存した意思疎通は困難になり、言語による意思伝達が求められるようになる。
一を言っても、一しかできない。「言われたことしかできない」状態だ。中には「言ったことすらできない」と嘆くリーダーもいるだろう。そんなリーダーに、ぜひ知ってもらいたい。一を言って、百と言わないまでも十ができるようになるには、聞き手(メンバー)の能力よりも、話し手(リーダー)の能力が問われる時代なのだと。
何がセーフで、何がアウトか? どうなったらポイントになるのか? 多様化の時代に暗黙のルールはない。明確な指針(ルール)が必要だ。
あるレストラングループを経営するA社長から「細かいことをいちいち指示しないと行動できない社員がいる。自分で考えて行動できるようになってほしいのだが、どう指導したらいいか」という相談を受けたことがある。
例えば、「顧客満足の向上」という指針を出したとする。何が顧客満足の向上に貢献するかが共有の知識となっていない場合、メンバーは具体的に何をしていいのか分からない。サービスのスピードなのか、料金なのか、メニューの豊富さなのか? 指針がざっくりし過ぎている。
それでもメンバーは、自分なりに考えて動いてみる。話し込んでいるカップルには、あえて距離を置く。自分だったらそうしてほしいから、顧客満足につながるはずだと考える。すると社長に「なぜ皿を下げないのか? 口に合わなかった料理は下げなさい」と言われる。良かれと思ってやったのに叱られるなんて、メンバーにとっては不本意だ。何が求められているのかが、ますます分からなくなる。動いて叱られるくらいなら、動かない方がいい。「うちの社長は指示が出せない」と言われる状態だ。
もし今あなたに、言ったことすらできない「センスが悪い」メンバーがいるとしたら、それはあなたの指針がざっくりし過ぎているからだと思った方がいい。
動かないメンバーを前に、A社長は「グラスが空く前にワインをつぐ」「空いた皿は下げる」と、細かく指示を出さざるを得なくなった。ここまで指示が具体的になると、メンバーは裁量の余地をなくし、言われた通りに行動するしかない。一を言って一しかできない状態だ。
多くのリーダーは、この状況を恐れている。いちいち細かいことを指摘すると、メンバーの自発性を奪うことになることくらいは、経験済みだろう。だから、あえてざっくりした指針に止めているリーダーもいるはずだ。
悩めるA社長に、「グラスが空く前にワインをつがなかったら、何が起きるのか?」と聞いてみた。すると、「お客さまが“すみません”と声を掛けなければならなくなる。お客さまに“すみません”とは言わせたくない」と言う。なるほど、A社長にとって顧客満足を向上させるサービスとは、お客さまに“すみません”と言わせないサービスのことだったのだ。しかし、彼はこの基準を社員に伝えたことはなかった。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授