連載
» 2018年05月21日 07時02分 公開

「創造生産性」の高い豊かな社会――ありものを使い倒して、お客さま起点の価値を創出視点(2/3 ページ)

[長島 聡,ITmedia]
Roland Berger

 この創造生産性の向上には、もちろん固定費当たりの対価を高めるという効果も包含されている。つまり製品やサービスの売価を上げながら、給料を上げるという取り組みだ。デフレではなく、今まで提供していなかったことを提供する。だから売価を上げる。それを給料アップにつなげて、お客さまの立場でもある社員が日々の生活の中で支払える対価を上げるのだ。新たな価値を生むリードタイムを短くし、その確度を上げることができれば、さまざまな製品やサービスで売価アップが実現され、給料アップへとつなげる。そしてさらなる売価アップへと循環を回していけばよい。創造生産性とは、再投資、拡大再生産が回っている世界を表した言葉なのである。

3、分子を極めるコツ

 新たな価値を生むリードタイムと確度を極めるために大事なことは2つある。それは、「お客さま起点であること」と「ありものを使い倒すこと」。「お客さま起点」という言葉は、ある意味使い古された言葉だが、工夫によっては何倍にも輝きを増す。ものづくりに携わる人がお客さまとの距離を縮めて生活の中のシーンとして新たな価値を想起する。これまでの3倍長く、3倍深くお客さまと付き合うために必要な製品やサービスを妄想する。喜びを増やす、密度を上げる、頻度を上げる、より高次の欲求へとチャレンジする。そして売価を上げるのだ。いずれも、一連の製品やサービスでお客さまを虜にし、お客さまのマインドシェアをこれまでにない次元で高めて行こうとする取り組みだ。単一の革新的な製品やサービスももちろん素晴らしいが、刺激や発見の量産をしていくためには、積み重ねや組み合わせのアプローチが極めて有効なのは言うまでもない。

 一方の「ありもの」だが、新しいものを作るのに、ありものでは心もとないと思うだろう。でも侮ってはいけない。あの初代iPhoneだって液晶画面にタッチセンサーといったありものの組み合わせで作られたと言っても良い。ありものを組み合わせて、新たな価値に仕立てた方が、品質、コスト、スピードの面で圧倒的に優れている。ありものは、これまで何度も使われてきたため、一つ一つの品質やコストには競争力が既にある。よって、インテグレーションさえしっかりすれば、スピーディに万全のものに仕立てられるのだ。組み合わせで多様性が出せるので一人一人のお客さまにぴったりのものを作るにも有効だ。パナソニックで進められている「ヨコパナ」はまさにこの取り組みだ。(図B参照)

 逆に、ありものを使わず、ゼロベースで作り始めたら、いつになったら完成するのか分かったものではない。もちろん、ありものの組み合わせだけで、何でもできると言っているわけではない。新たな価値を生むためには、新たな技術や能力も大歓迎だ。新たな技術や能力を、特に、お客さま起点で描いた一連の価値に貢献できるものを、引き続き生み続けて欲しい。そしてそれらを「新たなありもの」としてどんどん流通させてほしい。

4、新たな価値の企画と実装を高速で回す

 最初のステップは、一連の製品やサービスで一貫したお客さま起点の価値を生んでいる世界観を描くことだ。どんなお客さまにどう喜んでもらうかを想像する。最初は価値は少し小さくても良いから、その価値を大きく評価してくれて、需要がありすぐに始められるところから始める。規制やルールをお客さま起点で見直し能動的にそうした環境を作り出す努力も必要だ。そうすると、売価が取れた上でコストが最小で済み、経済合理性が担保できる。

 1つ成功したら、類似のお客さまやエリアに広げていく。その際、ゼロベースで始めるのではなく、もちろん成功したありもののコピー&ペーストでスケールを生み、加速していくのが良い。たくさんの小さな成功を通じて受容性を高めていくステージだ。そして、徐々にお客さまの幅を広げつつ、新たな価値を加えて市場を広げていけば、無理なく事業を拡大できる。無人自動運転を今ある車でも、安全に行える道路から始め、技術進化とともに走れる道路を次第に増やしていくアプローチなどは、まさにこれにあたる。社会的な受容性を高めながら普及が加速していくのは間違いない。(図C参照)

 一方、こうした世界観を提供する者としては、常にやるべきことがある。自分への問いかけである。それを本当にやりたいか。周りに仲間がいるか、さらには反対する人はいるか。それを反対する人が一転してやりたいと思うには何が必要か、反対者が残った場合でもクリティカルとならないか、といったことに思いを巡らせ、みんなのやりたい世界観へと仕立てあげる作業である。

 ここでは、自分達が大事にする価値観のよりどころを、言語化、映像化して、みんなとの対話の中で活用していくと良い。特に、具体的な表現と抽象的な表現を何段階かにして織り交ぜた抽象度のグラデーションがあると、対話が活性化して創意工夫が進む。また、この価値ツリーには、世界一、世界初といった大きな目標を包含しておくと、現場のやる気が高まる。現場がお客さま、社会そして世界に役に立てるという感覚を持つと、時に大きな力を発揮してくれるのだ。

 さらに、ありものを使い倒して価値を実現するにあたっては、ありものが使う側の立場で分かり易く「見える化」されていることが重要である。使いたくなる武器が目の前にある状態だ。武器を使いやすい最小単位でそろえ、人やAIの力を使って、マッチングしていく。この「見える化」や「マッチング」はまだまだ正解の姿が十分見いだせていないが、試行錯誤をして必ず実現したいと考えている。(図D参照)

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