CIOの役割は「会社の戦闘能力を上げること」 でも、どうやって? 変化の渦中でRIZAP CIOの岡田氏が描く戦略はCIOへの道(2/3 ページ)

» 2018年12月10日 07時00分 公開

「ITの戦略的な活用」を実現したくてSIerから転身

Photo クックパッドのコーポレートエンジニアリング部で部長を務める中野仁氏

岡田氏: 先ほど、「ITとビジネスをつなぐ仕事がしたくてエンジニアからビジネスの世界に転じた」とお話ししましたが、1990年代当時にITを本当に戦略的に活用できていたのは、ヤマト運輸とセブン‐イレブンの2社だったと記憶しています。当時、ヤマト運輸の配送システムやセブン‐イレブンの単品管理(店舗の品ぞろえをより顧客ニーズに合ったものにするために、商品の販売や仕入、在庫の管理を単品ごとに行うこと)の登場は私にとって衝撃的で、まさに「ああいうものを作りたい」と思って事業会社に転じたのです。

中野氏: ITはビジネスに本質的なインパクトを与えられますし、私もまさにそれがやりたくて、同じようにSIerから事業会社に転身して、その後さらにWebサービス業界に転じました。

岡田氏: そうして入ったのは、当時、無名だったファーストリテイリングなのですが。SI時代の同僚からは「おまえ、先見の明があったな」と言われますね。

中野氏: 入社したときに、「ファーストリテイリングはグローバル企業になるだろう」と予想していたのですか。

岡田氏: 「なるだろう」ではなくて、「自分がそうしよう」と思ったんです。

中野氏: そうはいっても、経営者がITを重視する人じゃないと、その可能性は絶たれますよね。入るときに、柳井社長がそういうタイプの方だと分かっていたのですか。

岡田氏: いやいや、そんなに腹をくくってないですよ(笑)。会社を選ぶなんて、くじ引きみたいなものですから。志を持って生きていれば、自ずと良い方向に行くんですよ。

 ちなみにクックパッドさんのことは、ベンチマークしていたんですよ。かつてクックパッドの取締役を務めていた新宅正明さんから話を聞いていて、ITの組織が自由に動ける、とても良い会社だという印象を持っています。AWSを初期の頃からうまく使っていますよね。

中野氏: AWSに見られるような一点集中型の選択は、クックパッドの伝統ですね。サービスサイドでもRubyへの完全移行、インフラとしてのAWS全面採用、DWHでのAmazon Redshiftへの全振りなど、大体がそのパターンですね。決めたものに一気にフォーカスしていく。今回の社内システムへの投資方針も、実はその延長線上にあると感じています。

 新宅さんは、システム刷新プロジェクトの際に、社外取締役としてシステム投資に対する私の考えを後押しし、アドバイスしてくださった方なんです。少ししか話す機会がなかったのですが、「すごい。社内システムについて、こんなに分かっている経営者がいた」と驚いたのを覚えています。実際、計画していたシステム刷新はかなり短期間で厳しい戦いを強いられるものだったのですが「これは海外も含めたシステム統合、いけるかもしれない」と覚悟を持てた。あの時の後押しがなかったら、統合プロジェクトはやらなかったかもしれないです。

役職ではなく「やったこと」で覚えられる人間に

Photo

中野氏: Webサービスの世界は、極端な話、翌年に自分の会社がまともにあるかどうかすら分からないほど、ビジネスのサイクル自体が短い。ルールやプレイヤーの変化のスピードが尋常じゃなく速いのです。それに伴って経営方針や戦略、財政状況といった前提条件も変わります。一方でシステムを中心とした施策は、ある程度リードタイムがかかる上に軌道修正が大変です。情報の通る道路というか都市計画やっているようなものですから。これにどう向き合うべきだと思いますか。

岡田氏: 一言でいえば、「言われたことをやらない」ことです。今のような変化の時代には要件がどんどん変わるから、それを真に受けてやっていたら柔軟な立ち回りはできないですよ。「○○さんが言ったから」という仕事をするのではなく、言われたことはインプットとして受け止めながら、そこから「われわれはこうあるべき」という話を詰めていくことが重要です。そのステップを決めていけば、多少、前提条件が変わっても無駄にはならないですし、たとえ変わったとしても受け身が取りやすいんですよ。

 下請け的なITだと前提条件に対する変化に対して受け身が取れないですよね。柔道で投げられるときに、骨折するか受け身をとるかで全然違うじゃないですか。

 業務側で要件を出す人たちは、もちろんその時は自分の仕事を一生懸命しているのですが、前提条件が変わったときに、その責任はとらないですよね。どこの会社でもそうなんですよ。システムは何年も使うものなので、要件のインプットだけで開発したものが、業務に通用し続けるわけがないんですよ。

 どうすべきかといえば、前提条件への責任を私たちが持つしかない。つまり、前提条件の変化を私たちがきちんと研究して分析し、「こうあるべき」と決めたものであれば、残る可能性があるんですよ。もちろんそれでも翻るようなものもありますが、そうだとしてもまずは「全体を考えて設計すること」がとても重要です。

 とはいえ、変化が激しい時代ですから10年先のことなんて誰にも分かりません。考えるのは、せいぜい3年後ぐらいまでですね。長いスパンで考えるのは、IT投資ではなく、むしろ組織作りや後継者の育成計画でしょう。50歳を過ぎている私が組織の戦闘力を上げることを考えるとしたら、権限移譲をしなければならない。10年後、5年後の組織を見据えてサクセッション(後継者育成計画)を考えていくことがとても重要です。

中野氏: 確かに、今の変化の速さを考えると、3年から5年持てばいい方です。

岡田氏: ただ、ITベンダーはどうしても、値引きをちらつかせて長期契約を取りに来ますから、その手に乗らないよう注意する必要があります。前提条件が変わったり、新たな課題が生じたりしたときのために、変化に柔軟に対応できるクラウドを採用しようとしているのに、「安くしますから、オンプレミスの5年契約で」などという提案をしてくる。それに乗ってしまったら意味がありません。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆