海抜零から山を創りあげ、5年以内に世界初登頂することがMITで生き残る道NTT DATA Innovation Conference 2019レポート(1/2 ページ)

テクノロジーは1年で廃れ、アプリケーションは10年で置き換えられるが、強いビジョンは100年を超えて生き続ける。デジタルトランスフォーメーションの時代を生き抜くためにはビジョンが不可欠だ。

» 2019年03月20日 10時06分 公開
[山下竜大ITmedia]
MITメディアラボ 副所長 石井裕氏

 「Accelerating Digital――グローバルの英知で持続可能な社会へ――」をテーマに、NTTデータが開催した「NTT DATA Innovation Conference2019」の基調講演に、MITメディアラボの副所長である石井裕氏が登場。「未来競創:グローバル時代を生き抜くためのビジョン」と題した講演を行った。

 MITメディアラボは、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)において、ニコラス・ネグロポンテにより 1985 年に創設された、デジタルテクノロジーによる新しい表現・コミュニケーション・デザインのメディアを創出するための研究所である。石井氏は、「MITメディアラボでは、教授や学生たちが自由かつ多様な視点を持っています。違った考えがぶつかるところに、新しい議論、そして切磋琢磨が生まれ、新たな創造につながります」と語る。

データ通信の世界を予見・実現したパイオニア、NTT の大先輩、北原安定博士

 1980年、NTTの前身である日本電信電話公社への入社が石井氏のキャリアのスタートという。当時の日本電信電話公社の主な事業は「電話」だった。当時の電話事業では、「積滞解消」と「即時通話」が最大の目的だった。パソコンはまだ普及しておらず、研究用には他研究室のミニコンピュータ VAX 750 を、300 bps の音響カプラを通して使わせてもらうしかなかった。

 データ通信の歴史を考えるとき、1960年代に、現在のインターネットのもとになるARPANETの運用がスタートしたことが大きな転機となった。1977年には、元 NEC 社長小林宏治氏が、コンピュータとデータ通信を統合するC&Cビジョンをアトランタで発表、1978年には、元NTT代表取締役副社長の北原安定氏が INS(Information Network System)ビジョンをジュネーブで発表。そして1980年代には、今日のWorld Wide Webの基礎が確立された。

 石井氏は、「北原氏は、電気通信からデータ通信への変革を提唱しました。INSを活用した将来的な在宅勤務やオンラインショッピングなど、“電話”の次のネットビジネスを積極的に模索していました。のちの情報化社会の礎を築いた、北原氏の功績は非常に大きいものです」と語る。その後、1985年に日本電信電話公社は、民営化でNTTに生まれ変わった。

 「NTTには、1980年から1995年まで研究所に在籍していました。当時NTTは、BISDNにより世界が変わるという夢を持っていました。しかし、BISDNで一体どのようなサービス可能になるのかが大きな課題でした。高速道路を作っても、その周辺にどのような街が広がっていくかを思い描けることが重要です。そこで、新しい価値を生み出すサービスの研究を 1990 年からはじめました」(石井氏)

 その一環として、BISDN の広帯域高速通信回線を活かして、距離を越えて何ができるのかを考え、1992年に、当時の NTT ヒューマンインタフェース研究所の同僚、小林稔氏と一緒に開発したのが「クリアボード」である。クリアボードは、相手の視線を読みながら、遠くの人と一緒に協同描画できる透明ホワイトボードであることが特長だ。

 この研究が、パーソナルコンピュータの父と呼ばれるAlan Kay氏の目にとまり、1994年のアトランタの会議でクリアボードについて講演することになる。その講演直後に、MIT メディアラボ所長のニコラス・ネグロポンテ教授(Nicholas Negroponte)にヘッドハンティングされ、翌年 1995 年 10 月に MIT に赴任した。その時、氏に言われたのは、これまでの研究はやめ、全く新しい研究を始めろ、すなわち「リブート」だった。

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