トヨタに比べ純利益が非常に少ないAmazon.comの方がなぜ時価総額が高いのかエグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム

一般的に企業の成長は、直線的な右肩上がりだが、日本でも、米国でも、資産総額上位の企業は、指数関数的に成長している企業である。なぜ指数関数的成長ができるのかを考察する。

» 2019年03月25日 07時07分 公開
[山下竜大ITmedia]

 早稲田大学IT戦略研究所は、「指数関数的に成長する企業、エクスポネンシャル経営」をテーマに、第80回となるエグゼクティブ・リーダーズ・フォーラム定例会を開催した。最初の講演には、メルカリ 取締役社長兼COOの小泉文明氏が登場。「メルカリの経営戦略」と題して講演した。

テクノロジーで個人がエンパワーされる

メルカリ 取締役社長兼COO 小泉文明氏

 2013年に創業したメルカリ。創業1年目は、サービス開始から半年で100万ダウンロードを達成した。小泉氏は、「良いプロダクトを作ることが1年目の目標。あまり宣伝もせず、ステルス戦略を推進していた」と話す。1年間、機能改善を行い、2年目の2015年2月には、1年目の10倍となる1000万ダウンロードを実現。日本国内において、急成長している会社の1つとして認知されるようになった。

 「1年目は、良いプロダクトを創ったという自負があった。2年目は、しっかりとマーケティングとPRを行おうと考えた。当初は、手数料を取らず、まずは使ってもらうことを優先したため売り上げはゼロ。社員数も、2014年初めは20人程度だった。40社以上のベンチャーキャピタルに断られたが、mixiでの実績を評価してくれた投資家もおり、2014年3月に14億5000万円の資金を調達することができた」(小泉氏)。

 調達した資金は、ほとんどマーケティングとPRに投資した。例えば、テレビCMに1カ月で約5億円を投入している。小泉氏は、「大企業がCtoCの分野に参入しはじめていたので、これに打ち勝つのは一点突破しかないと考え、調達した資金をテレビCMに使った。スタートアップの世界は、“勝者総取り(Winner Takes All)”であり、1位以外は、2位も、5位も、100位も同じ。最終的には、撤退を余儀なくされる」と話す。

 また2014年秋には、会社設立時より計画していた米国でのサービスの提供を開始。翌月には、23.6億円の資金調達を行い、同じタイミングで日本でも手数料の徴収を開始した。この時点で、社員数は50人程度だったが、日本国内で圧倒的な地位を確立した。現在、メルカリのアクティブユーザーは約1000万人。国内の月間流通金額は約350億円で、年間成長率は58.3%。ユーザー認知度94%である。

 メルカリの差別化のポイントは、「簡単」「安心・安全」「楽しい」の3つ。スマホアプリで、簡単に売り買いが楽しめることから、当初は女性もののアパレルが売買の中心だった。現在は、40〜50代の男性の伸びが著しく、書籍やゴルフ用品が、数多く出品されている。またエスクローシステムにより、安心・安全な取引を実現している。ゲーム感覚の楽しさも受けている。

 今後は、ユーザー基盤の拡大と、1人当たりの単価(ARPU)を上げるために、人工知能(AI)やIoT、ブロックチェーン、xR(AR、VR、MR)などの最新テクノロジーを活用したユーザー体験の向上にも取り組んでいる。小泉氏は、「今後も、人材、テクノロジー、海外の3つの柱で、既存事業、新規事業に投資をしていく」と話す。

 「メルカリ、mixiを経営してきた経験から、テクノロジーで個人がエンパワーされる社会に向かっていると感じている。高度経済成長期は、人が機械に使われる時代だったが、これからはテクノロジーの活用により、人が人らしく生き、自分の能力をコントロールできる時代が来ると考えている。メルカリは、6年間、テクノロジーにより成長してきた。今後もテクノロジーで成長していきたい」(小泉氏)

指数関数的に飛躍する企業の特徴とは

早稲田大学 ビジネススクール教授 根来龍之氏

 2番目の講演には、早稲田大学 ビジネススクール教授の根来龍之氏が登場。「指数関数的に飛躍する企業の特徴 〜エクスポネンシャル企業の成長論〜」をテーマに講演した。根来氏は、「企業価値は、時価総額により評価されるが、年々その顔触れは変化する。2016年の第1位はアップルだったが、現在はAmazon.comである。これらの企業に共通するのは、指数関数的に成長しているということだ」と語る。

 一般的に企業の成長は、直線的な右肩上がりである。また、伝統的な企業の成長曲線は、ある程度まで行くと右肩下がりになる。「いつまでも成長を続けることは原理的にはありえない」と根来氏は言う。しかし、それでも、いくつかの会社は、長期間、指数関数的な成長を成し遂げる。こうした企業は、インターネット企業に多い。理由は、ネットワーク効果がはたらき、勝者総取り状態になることで強い会社がますます強くなるためだ。

 「指数関数的に成長する代表的な会社として、Amazon.comがなぜ指数関数的に成長しつづけているのかを考察したい。Amazon.comは、実はネット書店の厳密な先行者ではない。書店を母体とするBooks.comが半年早くネット書店を始めている。しかしその後の戦略で、成長スピードが大きく変化する。メルカリも、フリマアプリの先駆けではなかったが、成長戦略により今に至っている。Amazon.comの成功は、“成長モデル”にある」(根来氏)。

 成長するためには資金が必要。Amazon.comは、キャッシュフローが潤沢で、設備投資をしても、さらに投資できる余裕がある。利益は少ないが、キャッシュは潤沢に持っている。ただし、1つの事業だけでは成長は続かない。そこで、Amazon.comでは、2002年よりマーケットプレースを展開。本からスタートして、CD/DVD、家電、おもちゃ、ファッションなど、事業ドメインを拡大している。

 さらに事業分野を小売り・ECから、企業向けサービス、OS/アプリ、家電、娯楽へと拡大している。また、国内市場だけでは限界があるので、グローバルにも展開している。その一方で、撤退した事業もある。例えば2014年には、「Fire Phone」と呼ばれるスマートフォンの販売を開始したが、2015年には撤退している。

 ネット書店のインフラから、クラウドサービスである「アマゾンウェブサービス(AWS)」へと発展し、AIアシスタントである「Amazon Alexa」は小売り事業へとシナジー効果をもたらしている。根来氏は、「日本ではこれからの市場だが、米国ではAIスピーカーが広く普及している。AIスピーカーに呼びかけることで、商品を購入することもできるので、さらにビジネスが拡大する」と話す。

 「指数関数的に成長する企業の特徴は、事業戦略として既存企業に対する“代替”が進行する分野に参入し、新たな“需要”を獲得すること。また、ネットワーク効果により、勝者総取り状態を生み出し、ソフトウェア化やサービス化により収穫逓増する。さらに、多角化戦略で、急速に事業の多様化を進め、参入と撤退と参入を繰り返し、事業間にシナジーがあることで、新規事業でも勝者総取り状態を築くことができる」(根来氏)。

ファイナンス思考の対極にあるのがPL脳

シニフィアン 共同代表 朝倉祐介氏

 最後の講演には、シニフィアン 共同代表の朝倉祐介氏が登場。著書である「ファイナンス思考:日本企業を蝕む病と、再生の戦略論」をテーマに講演した。朝倉氏は、「なぜ、経理部門の担当ではないビジネスパーソンが、ファイナンス思考を学ぶ必要があるのか。それは、自分たちが参加しているゲームのルールを知るためである」と話す。

 ファイナンス思考には、3つの特長がある。ファイナンスの「知識」「理論」ではなく「考え方」が重要であること、日本企業を取り巻く思考形態(PL脳)との対比、最後にファイナンスを4つの機能に分類して定義することである。ただし、最低限、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の構造は知っておかなければならない。

 企業の評価軸には、事業の成果、保有する経営資源、会社の価値などがある。事業の成果を表すのがPLであり、保有する経営資源を表すのがBSであり、会社の価値を表すのがファイナンスである。

 ファイナンス思考の対極にあるのがPL脳だ。PL脳とは、売り上げや利益といったPL上の指標を目先で最大化することを目的視する思考態度である。例えば、「増収増益こそが会社の使命」とか、「減益になりそうだからマーケティングコストを削る」とか、「黒字だから問題ない」といった思考がPL脳である。

 朝倉氏は、「PL脳が無視しているのは、事業価値と資本コストである。例えば、利回り3%の社債を利息8%で銀行から借り入れして購入する人はいないが、PL脳ではこれをやってしまう。一方、ファイナンス思考は、ファイナンス的なモノの考え方であり、企業価値を最大化することを目指す」と話す。

 ファイナンス思考は、企業価値を評価軸とし、PL脳はPL上の数値を評価軸とする。また、ファイナンス思考は、長期未来志向を時間軸とし、PL脳は四半期や年度末を時間軸とする。さらに、ファイナンス思考は、数年後にこれだけのリターンを得るという逆洗的考えを経営アプローチとし、PL脳は四半期、年度末のリターンを得ることを経営アプローチとする。

 朝倉氏は、「ファイナンスとは、企業価値を最大化するために行う一連の活動である。企業価値とは、会社が将来にわたって生み出すと期待されるキャッシュフローの総額を現在価値に割り戻したものである。ファイナンスの機能は、外部からの資金調達、資金の創出、資産の最適配分、ステークホルダーコミュニケーションの4つ。目先のPLをよく見せることだけを考えていると、未来に向かって価値ある大きな事業を作ることはできない」と締めくくった。

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