厳しさと怖さは違う。“厳しさの5つの条件”とは?
「最近の若い人は、根性がなくてだめですよ。ちょっと厳しく言ったらすぐに逃げ出すし、パワハラだと騒ぐし……。部下や後輩は厳しく育てるべし、なんて私たちの時代の常識はもはや都市伝説ですね」――こうした嘆きにも近いご相談が私の元には頻繁に寄せられます。
時代の流れとも言うべきでしょうか。最近は部下に徹底的に厳しい指導をする人は少なくなりました。パワーハラスメントが大きく取り上げられるようになるのと同時に、以前からの上が下を押さえつけるようなボスマネジメントの在り方に違和感を覚える人が増えてきたからでしょう。
「朝倉先生は、厳しくいくか、優しくいくかどちらですか?」とよく聞かれますが、実際のところ私はどちらもあります。厳しく指導することもあれば、部下を思いっきり褒める(優しいに分類される行動だと思います)こともたくさんあります。つまりときに鬼となり、ときに仏となるのです。
しかし厳しく指導するというと、よく“パワハラ”を連想されるのですが、ここは多くの人が勘違いしている点だと思います。
厳しいとは、あくまで仕事に対してです。小さなミスを見逃さず、甘えを許さず、求める品質まで部下の仕事を高めることであって、決して部下を感情的に怒鳴りつけたり、人間性を否定して精神的に追い詰めたり、ましては暴力を振るったりすることではありません。そうした言動は「指導」ではなく、ただのどう喝や暴行です。
厳しさと怖さは違います。以前の会社の経営トップに教えてもらった“厳しさの条件”を皆さんにもシェアしましょう。
(1)私心がないこと
(2)見逃さないこと
(3)具体的であること
(4)率直であること
(5)本質をつくこと
いかがですか? この大前提を見失ってしまうと、部下を成長させること、ではなく厳しくあることが目的になってしまいかねません。
そもそも厳しく叱る、優しく褒めるといった行為の目的は何でしょうか? 答えはとても簡単です。
例えば遅刻した部下に対して、「なんで遅刻なんかしたんだ!お前の気持ちがたるんでいるからだろう!」と怒鳴りつけることは簡単です。これが厳しい上司としてのあるべき姿だと思っている人も多いでしょう。おそらく遅刻した部下自身も「やってしまった!申し訳ない」という反省の気持ちは持っているはずです。しかしこのように怒鳴りつけられても、萎縮するだけで、なぜ遅刻してはいけないのか、遅刻しないためには今後どのようにすればいいのか、と考えるには至りません。
「遅刻をすればチームメンバーに迷惑が掛かります。実際に今朝はBさんがあなたの仕事を代わりに行いました。今日遅刻をしてしまった原因と今後の対策案をまとめて帰るまでに提出してください」とピシャリと一言。こちらのほうが、部下のその後の行動が変わるはずです。
このように、厳しさの条件を思い出しながら、指導の在り方を見直してみてください。
時代が時代ですし、もう厳しくすることはやめて、部下には優しくしようと思っている人もいるのではないでしょうか。確かに人は何歳になっても褒められるとうれしいものです。上司に褒められたことで、「よし!もっと頑張るぞ!」とモチベーションが上がる人もたくさんいます。
ではこんなシーンではどうでしょうか?
部下に頼んでいた企画書が出来上がったものの、思った通りの仕上がりではなかったとします。このとき、厳しくあることを放棄した上司、部下に好かれたい上司はこの企画書を部下に突き返すことができません。「部下に嫌われたくない」という思いが先行してしまい、納得のいく仕上がりではないのにOKを出し、あとからこっそり自分で直してしまったり、「こことここが良くないから、こういう風に直してね」と優しく事細かに指示を出してしまったりします。
部下からすれば楽な上司です。何を提出しても笑顔で受け取ってくれ、何でも優しく教えてくれる上司であれば萎縮することもなくストレスフリーに接することができるかもしれません。しかし、これではいつまでたっても部下は成長できないのです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授