優秀な部下を育てるのは、鬼か仏か部下から信頼されるエグゼクティブとは(2/2 ページ)

» 2019年06月24日 07時09分 公開
[朝倉千恵子ITmedia]
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 部下のミスを指摘しない、何でもかんでも教えてあげる上司というのは、実は「部下が自分で考え、気付く機会」を奪っています。これは上司としての礼儀を欠いた行動だと私は考えています。

 たとえ部下に嫌われようが「やり直し」と企画書を突き返し、答えを教えるのではなく部下に自ら考えさせながらゴールまでたどりつかせることこそが、上司としての礼儀です。

理解力のある上司が部下をダメにする

 一般的な「優しさ」と、上司の「優しさ」は違います。

 かくいう私も、経営者になるまではこれがよく分かっていませんでした。いま思えば、以前の私は「指導者」ではなく「みんなの憧れのお姉さん」になりたかったのだと思います。

 部下が問題を起こしたと報告を受けても、叱ることもせず手取り足取り対策法を教えてあげていました。また、部下の報告の仕方が分かりにくかったとしても、日頃のやりとりから何を伝えたいかがくみ取れたため、「はいはい、〇〇ってことね」と理解してあげていました。

 部下とよくコミュニケーションが取れていると思っていましたし、チームメンバーからも慕われていました。

 しかしそんな私の上司としての在り方は、実は部下の学ぶ機会を奪っていたと後から気付いたのです。自ら問題の対策法を考えなかった部下は、また同じような問題が起きた時に対処ができません。つたない報告でも理解された部下は、伝え方を変える必要性を感じず分かりにくい話し方をするままです。

 信賞必罰。ときに厳しく、ときに優しく――

 部下の未来は上司によって決まると言っても過言ではありません。常に心に刻むべきは「上司たるもの厳しくあるべき」といった定説でも、「部下に嫌われたくない」といった下心でもなく、「この部下がどこにいっても通用するだけの実力をつける」という使命ではないでしょうか。

“さとり世代”は本当に欲がないのか?

 さて、根性がないとやゆされる最近の若者たちに意気揚々と仕事に取り組んでもらうためにはどうすればいいでしょうか?

“ゆとり世代”の後進、“さとり世代”といわれる人たちは、欲がないのだそうです。バブルが弾けたあとに生まれ、ずっと景気が悪い中で育ってきたため、生きることへの希望が薄く、出世欲も物欲もないといわれています。頑張ったところで給料は上がらないのだから、頑張る必要なんてない、という考え方も一理あるかもしれませんね。

 しかし、本当に今の若い人は欲がないのでしょうか? 確かに、「高級外車に乗りたい!」「社長になって年収1億円稼ぎたい!」といったギラギラとした野望は抱いていないかもしれませんが、彼、彼女らは「人に認められたい」といった承認欲求や、「自分はここにいていいんだ」といった存在欲求がとても強く感じられます。

 SNSがその象徴です。いいね!やフォロワーを必死になって集め、フォロワーの数でその人の価値が測れると感じている人もいます。(余談ですが、最近の「人生ゲーム」では大富豪を目指すのではなく、フォロワーを集めるそうですよ。)

「小さな成長・成功」がこれからの部下育成のカギ

 さてそんな若い世代の指導にぜひ役立ててほしいのが「小さな成長・成功」です。仕事はもちろん結果主義です。結果が出なければ認められない、という大原則はあるものの、結果が出るまでには必ずそのプロセスがあります。

 今回も商談成立はできなかったとしても、

  • テレアポですぐに切られていたのが、最近は会ってもらえる確率があがった
  • 一度の訪問で断られていたが、クロージングまで運べるようになった
  • 先輩の力を借りずに企画書をまとめあげた 

など、プロセスを振り返れば前回からの進歩が見られることはあるはずです。

 その「小さな成長、成功」を部下に自覚させ、また上司としてそれを認めてあげることで、部下は「自分は成長している。認められている」と実感することができます。

商談が成立しなかったからと、このプロセスの成長すら無かったものにしてしまうと、部下はいつまでも苦しいままです。

 どんな大きな偉業も、最初はたった一人の小さな一歩から始まります。小さな成長が積み重なることで、やがて必ず結果につながります。

 山の上のほうには雲がかかっていて先が見えないのに、「一気に頂上を目指せ!」と号令をかけられても、尻込みをしてしまいますよね。「まずは1合目、次に2合目……」と着実に上がっていること、周囲の風景が変わっていくことを自覚させながら、一歩ずつステップアップさせる指導の在り方が今の時代には合っているのではないでしょうか。

著者プロフィール:朝倉千恵子(新規開拓 代表取締役社長)

小学校教員を経て、一般企業の営業職として入社。営業未経験ながら、礼儀礼節を徹底した営業スタイルを確立し、3年で売上NO1、トップセールス賞を受賞。

04年株式会社新規開拓を設立。現在までに延べ17万人の社員研修・人材教育に携わる。

女性の真の自立支援、社会的地位の向上を目指した、TSL「トップセールスレディ育成塾」を主宰。卒業生は2500人を超える。

著書は全39冊、累計売上部数は約48万部。主な著書に、『コミュニケーションの教科書』(フォレスト出版)、『すごい仕事力』(致知出版社)ほか多数。最新著は『仕事も人生もうまくいっている女性の考え方』(あさ出版)。


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