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» 2019年07月25日 07時08分 公開

ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術:これからのマネジメントに必要な「人間観」「組織観」 (1/2)

日本の労働環境は大きな転換点を迎えている。こうした時流を受け、リーダー自身も「人」や「組織」の捉え方を変えなければいけない。

[小笹芳央,ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


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『モチベーション・ドリブン 働き方改革で組織が壊れる前に』

 「働き方改革」この言葉を耳にしない日はないほど、働き方改革は依然大きな話題となっており、日本の労働環境は大きな転換点を迎えている。

 こうした時流を受け、リーダー自身も「人」や「組織」の捉え方を変えなければいけない。本記事では、今後のマネジメントに必要な「人間観」「組織観」と、それぞれに基づいたマネジメントの観点をお伝えしたい。

人間観を改めた経済学

 まず確認しておきたいのは、働き方改革の主役は「人」だということだ。だから、「人」をどのように捉えるのか、人間観が最初の出発点となる。

 経済学においては、長らく「完全合理的な経済人」という人間観が前提であった。

完全合理的な経済人とは、24時間、365日、お金や利得のことばかりを考え、1円でも得するように経済合理的に判断して行動する人たちのことだ。

 古典的な経済モデルでは、こうした人間観が前提とされており、完全合理的な経済人が利己的に振る舞い、財やサービスの交換を行うことで、神の見えざる手が働いて経済が発展すると考えられていた。

 しかし、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授らが研究する「行動経済学」では、人間は「限定合理的」であり、ある程度は合理的に考えたり振る舞ったりはするものの、「感情」で判断が大きく左右される生き物であるとされた。

 具体的には、1000円をもらうよりも、「ありがとう、感動したよ!」と感謝されたり、「本当に成長したな」と褒められたりするほうがうれしい場合もあるということだ。

自分自身の行動を振り返ってみても、経済合理性よりも感情を大事にしたことが多々あるのではないだろうか。

 行動経済学では、人間を「完全合理的な経済人」ではなく、「限定合理的な感情人」だととらえ直した。経済学がこうした人間の感情や心理も考慮した人間観に変わったのは、人間の感情的な側面を視野に入れないと経済予測や経済分析ができない時代になったからであろう。

 従って、マネジメントにおいても、人間は「完全合理的な経済人」ではなく、「限定合理的な感情人」であるという人間観をもつことが大切になる。

「感情報酬」という新たな報酬

 これまでの企業経営においては、人間は完全合理的な経済人であるという人間観に基づいて制度や仕組みがつくられてきた。代表的なのが報酬で、給料やボーナスといった「金銭報酬」と、課長や部長といった「地位報酬」が報酬の中心であった。

 戦後の復興期から高度経済成長期まで、多くの人が金銭報酬と地位報酬を得ることで満足できた。家族を食べさせるために、少しでも豊かになるために働くというモチベーションを多くの日本人がもっていた。

 しかし今は、金銭と地位というニンジンをぶら下げるだけでは、人はがんばれない。限定合理的な感情人であるという人間観に立ち、次のような欲求に対する報酬が新たに必要になるのではないか。

 自分はかけがえのない一員だと認められる「承認欲求」。

 誰かのために役立っているという「貢献欲求」。

 以前と比べてこんなことができるようになったという「成長欲求」。

 良好な人間関係の中で働きたいといった「親和欲求」。

 こうした欲求、つまり感情を満たす報酬のことを「感情報酬」と呼んでいる。金銭報酬や地位報酬が仕事の成果に対してもたらされるのに対して、感情報酬は誰かとのコミュニケーションによってもたらされる。

 また、金銭報酬や地位報酬は、ある人がたくさんもらえば別の人は我慢しなければならないというゼロサムゲームの宿命を負っている。一方、感情報酬は、その気になればいくらでも報酬の原資を内部でつくりだすことができる。この点が一番の大きな違いだ。

 つまり、組織内に良好なコミュニケーションをつくりだすことで、無限に感情報酬を従業員に提供でき、モチベーションも高めることができるのだ。

組織観:人数ではなく「関係性の数」を見る

 次に、「組織」をどのように捉えるべきなのかを考えたい。私は組織を「要素還元できない協働システム」と捉えている。

 例えば、5人のチームだった場合、要素還元的な考え方では、「Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんがいる5人のチーム」と人数を数える。

 しかし私は、組織を「協働システム」であるという見方をするため、このチームのことを関係性の「線」で見る。

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